第219話 家族(3)

暴れまくるゆうこの父に志藤は呆然となったが、ハッとしてまた土下座をして



「・・大切なお嬢さんに、ほんま申し訳ないことをしてしまって! でも、信じてください! ぼくは絶対にゆうこさんを幸せにしますから! 泣かせるなんてこと・・しませんから!」


必死に頭を下げた。



「かっ・・関西人かァ? おまえはっ!!」



父はまたカーッと血が上ってきたようだった。



「きょ・・京都の嵐山です・・」



「おれはなっ! 関西人も大っ嫌いなんだっ!! その気持ちの悪い関西弁をやめろっつ!!」


もう



何もかもが気に入らず、怒鳴りまくった。



長男の和馬と母が必死に竹刀を振りかざした父を必死に抑える。



「お父ちゃん! 志藤さんだけの責任じゃないの! あたしだって責任あるし!」


ゆうこも必死に言った。



「・・ぼくはカンペキに関西人ですし。 しかも! 一人っ子の一人息子で! どう考えたって結婚するのにいい条件の男とは言えませんが! だけど・・ゆうこさんのことは命をかけても幸せにしますから!」



いつも冷静な彼が


こんなに必死な姿になっているのを


初めて見た。



畳に額をこすり付けるように頭を下げる志藤に


ゆうこは感動してしまった。



「ゆ、許さねえ!! 絶対に!!」


父はまだ怒り狂っていた。



「お父ちゃん、もうやめて、」


ゆうこは半べそで叫んだ。



「おまえをそんなふしだらな娘に育てた覚えはないぞっ!! こんな男と結婚するなんて絶対に許さん!!」


矛先はゆうこに向いた。



「あたしは、志藤さんと結婚します! お父ちゃんに反対されても!」



「そうだよ。 おなかの子はどうするって言うのよ・・」


母が父に言った。



「そ、それはっ・・おれが育てるっ!!!」




もう


見境がなくなっていた。



「あのねえ・・赤ん坊はハッピーと違うんだよ? あんたに育てられるわけがない・・」


母は大きなため息をつく。



「絶対に許さないからなっ! 二度とおれの前に来るなっ!!」


父はものすごい剣幕のままずんずんと出て行ってしまった。




母は和馬に目配せをした。


それにうなずいて後を追う。




志藤はもう顔も上げられなかった。



「ひっさびさに・・暴れたなァ・・」


拓馬は父のパンチが顔面に入って、鼻血を出しテイッシュで抑えていた。



「まだガラスが一枚も割れてないから、マシだよ。 お父ちゃんもとりあえず年取ったからね、」


母はため息をついた。



「・・ごめんなさい。 どうしようもない父で、」


ゆうこは深くうなだれて志藤に言う。



「いや。 お父さんが怒るのは当たり前。 そんなにすんなりとは許してもらえるとは思わなかったし。 でも、想像以上やったけど、」


まだ半ば放心状態で言った。



「お父ちゃんはね、子供ができちゃったことよりも、ゆうこをどこにもやりたくないだけなんだよ。 どんな男が来ても、まあこうなってただろうね。」


母は他人事のように言った。



「オヤジはゆうこ命だからな。 まあ・・こうなる道は避けられねえって言うか。 しかも! できちゃった結婚なんてさあ。 あの人、いっちばんそういうの嫌がりそうだし。」


拓馬は鼻をすすりながら言った。



志藤は


胸がチクチクどころか


ズキズキと痛んできた。




こんなにこんなに


大事にされて育ててこられた子に


自分はなんてことしてしまったんだろうか。



もっとちゃんとした道筋で


愛していかなくちゃならなかったのに。



いきなり


子供ができたから結婚したい


じゃあ。


父としても納得いかない気持ちはわかる。



「・・すみません、」



志藤はもう一度、母と拓馬に頭を下げた。



「いいのよ。 まあ。 近所でヤケ酒飲んで、今夜はガーっと眠っちゃうだろうから。 勝負はそれからだ。」


母は余裕の笑顔を見せた。



「で、なに? 子供いつ産まれんの?」


拓馬が言った。



「・・今、3ヶ月・・」


ゆうこが小さな声で言う。



「3ヶ月~~?」


拓馬が瞬時に計算しているようなので、ゆうこは



「もう! 細かい計算はしなくっていいからっ!」


両手で耳を押さえてぶんぶんと頭を振った。


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