第218話 家族(2)

「おー、よしよし。 今、散歩に連れてってやるからな、」


父はハッピーの首輪にリードを取り付けた。



なんだか


すっかりハッピーは父に懐き



散歩もいつの間にか父の日課になってしまった。



「こいつはホントに利口だよ。 散歩だって手がかからねえし、」



もう溺愛に近いほどハッピーに入れ込んでいた。



この日は日曜日。



ゆうこの母はいつも以上に父の動向に目を光らせていた。



庭でハッピーとじゃれ合っていた父のところに




「こんにちわ。」



志藤が意を決したように現れた。



ゆうこも駅まで迎えに行っていたので、一緒にやって来た。



「・・あ?」


父はハッピーを抱っこしながら志藤を見て不思議そうな顔をした。



「ごぶさたしています、」


志藤は緊張しながら頭を下げた。



「ああ・・」


いきなり現れた志藤に違和感を感じながらそう言った。



「あの、」


志藤は真っ直ぐに父を見た。



「今日は。 ゆうこさんとの結婚をお許しいただきたく・・参りました。」



ものすごい勇気を出して言った。



「は・・」




父は思った通り固まってしまった。



そして




「はあ????」



ものすごい形相で志藤に歩み寄る。



いきなりジャブを繰り出してしまった志藤に



「ちょ、ちょっと。 志藤さん。 とりあえずおあがりなさいって、」


母が慌ててやって来た。




二人の兄もやって来て


異様な空気に包まれた。



「・・ゆうこさんと結婚させてください・・」



志藤は深々と父に頭を下げた。




父は黙ったままだった。




ゆうこは耐え切れずに



「あのっ・・で、あたし・・おなかに赤ちゃんが、」



と言ってしまった。



兄たちはもちろん、父もガバっと顔を上げて二人を見る。




志藤はまたまた頭を下げて



「すっ・・すみません! でも、信じてください! ぼくは本気なので!!」


必死だった。




すると


父はやおら立ち上がり、部屋の鴨居に掛けてあった


息子たちが子供のころ鉄拳制裁に使っていた竹刀を取り出して、いきなり



「ふ・・ふざけんじゃねえええええ!!!!」



絶叫して志藤に振りかざした。




「キャーっ!!!!」



ゆうこはびっくりして志藤を庇うように彼の両肩を掴んで抱きついた。



「ちょっと!! お父ちゃん!」



母も必死に止める。




兄たちも慌てて父を羽交い絞めして止めた。



「ふっ・ふざけんなっ!!! 子供が・・できたァ?? おまえは・・ゆうこにっ!!」




もう


目が尋常じゃないくらい血走っている。



志藤はもう腰を抜かしたような状態で


身体はガタガタ震えていた。




「オヤジ! 落ち着けって!」


拓馬が言うと、




「うるせえっ!!!」


と、その手を振り解く。



そのとき、勢い余って父のパンチが彼の顔に入ってしまった。



「いっ・・でえええ・・」


拓馬はその場に座り込んだ。



一般で言うところの



『修羅場』


だった・・。

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