第214話 ハードル(1)
翌朝、ゆうこは志藤に送ってもらい
南のところに戻ってきた。
「・・すみません。 ごめいわくを、」
志藤はちょっとテレながら言った。
「え~~? こんなん迷惑やないって。 よかったね~~、おめでと!」
南は嬉しそうに志藤の背中を叩いた。
「いや・・まあ、」
あんなに
ツッパってたクールな彼が
まるで別人のように温和な顔になっている。
「あとのことは。 あたしも協力するから。 とりあえず。 今日はゆうこの家に帰ろうか。」
南は言った。
「え、」
ゆうこは不安そうに彼女を見る。
「あんまり留守するとお家で心配するやろし。 ・・もう話さないとアカンやろ?」
それが
一番悩んでいるところだった。
「それは。 おれがきちんと挨拶に行くから、」
と志藤は言ったが、
「・・いきなりは・・大変だと思います。」
ゆうこは言った。
「え?」
「たぶん・・父が。」
南も志藤も納得して黙ってしまった。
「母は話せばわかってくれるとは・・思いますが。 どっちにしろ、ショックを与えてしまうんじゃないか、って。」
ゆうこはうつむいた。
「ウン。 じゃあ、とりあえずあたしとゆうこだけでお母さんに相談することにしよう。 それで志藤さんがどんな感じで白川家に行ったほうがいいか考えよう。」
南は言った。
「は・・はい、」
心配そうに志藤と目を合わせた。
「あんた、いったい何やってんの? 会社は??」
家に帰るなり、当然の質問をされてしまった。
「・・あ、お母さん。 ちょっとわけあって。 今・・お一人ですか?」
南は言った。
「うん。 みんな仕事だし、」
南とゆうこは顔を合わせて頷く。
「あれ? この前、前沢さんからもらった・・栗蒸しようかん、どこいっちゃったっけ?」
母は台所でお茶受けを探すのに必死になっていたので、
「あ~~。 お母さん。 おかまいなく。 あの、ちょっとお話があるので、こっち来てもらえます?」
南が言った。
「え? 話?」
母は南にお茶だけ持って来た。
ゆうこはなかなか言い出せない。
南は彼女を小突いた。
「なによ、あらたまって。」
母は不審そうにそう言った。
「お・・お母ちゃん。 あのね、」
ゆうこは勇気を出して話し始めた。
「あたし・・実は・・妊娠してて・・」
いきなり本題に突入してしまい、南は結婚の話から切り出したほうがいいと思っていたので
ぎょっとした。
「あ?」
母は意味がわからないように、聞き返した。
「だから。 あたし。 おなかに赤ちゃんが・・」
ゆうこ
はもう一度そう言った。
母は
かなりの時間、湯飲み茶碗を手に固まった。
母の脳の中は
今、いろんなことを整理するのに非常に時間がかかっているようだった。
「お母ちゃん??」
ゆうこがその母に声をかけると、
「赤ちゃんって・・。 え??? ゆうこに?」
ようやく声を発した。
「ウン・・」
ゆうこはうつむいた。
「え? ちょっとまって? あんた・・つきあってる人、いた??」
まず、母はそこに立ち返った。
「い・・いるってゆうか・・いないってゆうか、」
曖昧な答えをしてしまったゆうこに南は
「アホ! ちゃんと言わないとアカンやんか! それじゃあ、ゆきずりの人みたいやん!!」
思わず声を大にしてしまった。
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