第213話 ガラスのうさぎ(3)
「ゆうこ?」
南は彼女からの電話に声を張って出た。
「すみません。 ご心配をかけて・・。」
「あ、それはいいけど・・」
「あたし。 ・・志藤さんと結婚することにしました。」
ゆうこはしっかりとした口調でそう言った。
「え・・ほんま?」
「はい。 彼・・亡くなった恋人の思い出の品を捨てようとまでしてくれて。 ようやく、素直になれました・・」
小さな声だが
落ち着いた声がして
南は心からホッとした。
「そっか。 よかった~。 ほんまに良かった。 ウン・・おめでと、」
涙ぐんでしまった。
「南さんや真太郎さんのおかげです。 結婚はそんなに簡単なことではないと思いますけど。 今のあたしは志藤さんと一緒に家庭を作って・・子供をしっかりと育てることがもう、運命なんだって思って。」
「うん。 だいじょうぶや。 きっと、」
南は何度もうなずいた。
志藤が外から戻ってきた。
「手、見せて。 バンソウコウとか消毒薬買ってきたから・・」
さっき、ガラスで切ってしまった彼女の手をとった。
「そんなに切れてないですから。 大丈夫、」
ゆうこはふっと笑った。
「バイキン入ったら大変やん。」
と言いながら手当てをしてくれた。
ふとテーブルを見ると
グラスにうさぎの破片が納められていた。
「これ・・」
「捨てないで下さい。 まだ・・生きてますから。」
ゆうこは微笑んだ。
「ゆうこ、」
「あたしは・・一生大事にしていきたいんです。」
優しい微笑を浮かべる彼女を見て
志藤は
心が洗われるように
素直な気持ちになれている自分に気づいていた。
こんなに
ゆったりとして
心から信頼できる人のそばにいれることが
幸せなんて。
忘れていた思いが
一気に吹き出した。
手当てが済んだ後、ゆうこは気分が悪くなって
トイレに駆け込んだりしていた。
「大丈夫?」
「ちょっと・・ムカムカして、」
と、胸を押さえる彼女に
「・・ここに泊まっていきなよ。」
志藤は言った。
「え、」
「一緒に、寝よう。」
優しい笑顔を向けた。
「え・・ホントに?」
帰ってきた真太郎は南からことの顛末を聞き、少し驚いた。
「ウン。 きちんと考えて出した結論やと思うよ。」
南は嬉しそうに頷く。
「そっか、」
真太郎は思ったよりも冷静だった。
正直
志藤の気持ちには降参状態だと思った。
いい加減な気持ちでゆうこに近づいたわけじゃないことも
すごく伝わってきて。
その真剣さに
気おされるほどだった。
ゆうこは志藤に優しく抱かれるように
眠ったが
これからたくさんの
問題を解決していかなくてはならないことも
わかっていて
本当に安心して眠れたわけではなかった。
「どうしたの・・?」
夜中に志藤が目を覚まし、起きていた彼女に声をかけた。
「ん・・なんでも・・ないですけど。 なんか、いろいろ心配になって、」
不安そうに言う彼女に
「だいじょうぶ・・ゆうこ一人やないから。 おれがついてる、」
志藤はニッコリと笑って、抱きしめた。
どうして
こんなにも彼に抱かれていると安心できるのか
ゆうこは目を閉じて、温かい彼の胸に身を委ねた。
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