第212話 ガラスのうさぎ(2)
しばらく
動くことができなかったが。
ゆうこはハッとしてその粉々になってしまったガラスの破片を慌てて拾い集めようとした。
「ゆうこ!」
志藤が止めたが、ゆうこは泣きながらその破片を手にした。
「あっ・・」
慌てて拾い上げようとして
手を切ってしまったようだった。
彼女の右手の人差し指の付け根から
真っ赤な血が出てきた。
「やめろ!」
志藤はそう言って、タオルで慌てて彼女の手を押さえた。
「だ、大丈夫です。 ちょっと切っただけで・・」
「もう・・やめてくれ、」
志藤の声は震えていた。
「もう・・拾わなくて・・いいから。 ゆうこは何もしなくていいから・・」
優しく
その手を押さえて。
「お願・。 彼女との思い出を・・消したりしないで・・」
ゆうこはへたりこむように座ってそう言った。
「え・・」
「きっと彼女はまだあなたとコンサートに行こうと楽しみにしている途中だったと思うんです。 幸せのまま天国へ行ってしまったんだと思うんです。 だから・・あなたは忘れたりしないで下さい・・」
志藤は彼女の言葉に
少し信じられないように
呆然とした。
「あなたは・・言いました。 結婚は一番好きな人としなさいって・・」
ゆうこは涙を拭きながら言った。
ドキンとした。
「あたしが・・あなたの一番好きな人なのかどうかって・・ずっと思っていました。」
なんて
真面目な子なんだろうか
志藤はもう感動すら覚えた。
自分が言った何気ない言葉を
こんなに真剣に考えたりしてくれて
「彼女のことを忘れていないあなたが不安でした。 何をしてもきっと彼女とあたしを重ね合わせている、と思いました。 でもやっぱり彼女との思い出を全て消し去らないとあたしと幸せになれないなんて・・そんなのウソです。 この人を愛して・・一度は結婚しようと思って・・・彼女を失って・・絶望を見てしまった今のあなたをあたしは好きになったって思っていますから。」
泣きながら必死に言うゆうこに
「・・ゆうこ、」
胸が
どんどんいっぱいになって。
「彼女との思い出とも一緒に生きるあなたが・・全てだと思っています。 だから・・その思い出ごとあたしに下さい、」
心が
死ぬほど揺さぶられた。
志藤はゆうこをぎゅっと抱きしめた。
こんなに愛しい人を
幸せにしなくて
どうする。
「やっぱり。 ゆうこしかいない。 ・・結婚しよう、」
もう一度
プロポーズをした。
「きっと。 うまくいく。 ・・幸せになれる。」
ゆうこは泣きながら
頷いた。
志藤は宙を仰ぎながら
唇を思わず噛みしめた。
奈緒・・
いいよな
これで。
おれ、間違ってないよな?
おまえの魂ごと
愛してくれる彼女と
これからの人生を一緒に歩いていっても。
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