第149話 罪(3)

「ほんまに。 キツイけど、あたしたちのダメなとこもちゃんと言ってくれる。」



南は志藤のことを思う。


それは真太郎も同じように思っていた。




「ただ。 これから白川さんとどうやって接していいのか。 よくわかんなくて。 そう言われて急によそよそしい態度をしてしまって・・彼女、傷つきやすい人だからどう思ったかなって。」


真太郎はゆうこの気持ちだけが心配だった。




誰も


傷つかないでいられることは


できないんだろうか。



南はぼんやりと思った。



病気をしてNYから戻って


毎日のように自分の元にやってきてくれたゆうこの笑顔を思い出す。




もう


一緒にいられないんやろか。



そう思っただけで


涙が出そうになった。




答えが見つからないまま


時間だけが過ぎていく。



真太郎の態度が冷たくなってしまって


戸惑うゆうこだったが



何をすることもできずに、悶々と毎日を過ごしていた。





「よ・・っと、」



資料室に行き、高いところにあるファイルを脚立に乗って取り出した。



「あれ? 違うか・・・」


はあっとため息をつきまた元に戻す。




もう


疲れちゃった。




脚立に腰掛けながら、そんな風に思いため息をついた。




この頃


何もやる気がおきなくて。



色んなことがあったから


自分の気持ちも整理ができなくて。



ふっと横のファイルの背表紙を見て



これかも・・



引き抜こうとしたが、ものすごくぎゅうぎゅうに挟まっていてなかなか取れない。



「・・・っ・・くっ・・」


握力をめいっぱい使ったが、固く挟まっている。



すると、横からスッと手が出てきた。



「・・志藤さん、」




突然彼がやって来て驚いた。



「取ろうか?」


ちょとドキンとした。



「あ・・ハイ、」


脚立に腰掛けたまま言った。



志藤はそんな彼女をじっと見て



「脚、キレイだよね。」



ボソっと言った。



「は・・?」



「脚、」



さりげなくそう言って


ファイルを背伸びをして取ろうとした。



ゆうこは焦って、彼の目の前にさらされた自分の足を隠すように



「どっ・・どこ見てるんですかっ!!」



真っ赤になって言った。



志藤は笑って、


「女の子の脚って細いだけじゃあダメなんだよな。 まっすぐで適当に太ももとかふくらはぎとかも、ないと。」


と言った。



「そういうのばっかり見てるんですね・・」



ゆうこは警戒しながら脚立を下りた。



「とりあえず見るでしょ。 男なら。」



あっさりと言ってくれちゃって・・




ゆうこはそれでもドキドキする自分の鼓動を抑えるのに必死だった。




思いのほか、ファイルを引き抜くのに力がいる。



「よっ!!」



志藤は思いっきり引っ張った。


すると、となりのファイルも一緒に引っこ抜けて落ちてきた。



「いっ・・!!!」



それが彼の顔面に思いっきりヒットしてしまった。


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