第148話 罪(2)

この人が言ったことは


間違ってはいない。


真太郎は志藤をぼんやりと見てしまった。



むしろ


自分が間違っていたんじゃないかと


ゆうべはずっと考えていた。



おれは


彼女とこんな空気になりたくなくて


一緒に仕事ができなくなってしまうようで


同じスタンスを取りたいって


思うばかりで。



彼女が傷ついていることも


目をつぶってしまったんだ。





敏感なゆうこは


真太郎との関係がよくわからないがぎくしゃくしはじめたことを


思い悩んだ。



二人は用があるとき以外


私語も交わせなくなってしまった。




「ねえ。 写真できてきたよ。 コレ、ゆうこの分やから渡しておいてくれる?」


南は封筒を手に真太郎に言った。



「郵便で送ったら?」


彼は少しドキンとしながらそう言った。



「え、なんで? どうせ会ってるのに。 渡してくれても、」


南は怪訝な顔をした。



「・・・・」



黙ってしまった真太郎に



「んじゃあ。 後で電話して。 あたしが会社の近くまで行こうかな。 帰りにゴハンして・・」


南がさらにそう言うと、



「・・南、」


真太郎はそれを制するように彼女を見た。



「どうしたの。 なんかあったの?」


南は彼の様子がおかしいことに気づいた。



「もう。 白川さんとは距離を置いたほうがいいんじゃないかな、」



目を逸らしながら言われて、



「え・・なんで?」


南はわけがわからない。



「白川さんだって南と普通につきあうことが・・つらいかもしれない。」


真太郎は南に背を向けるようにして窓の外を見た。



「真太郎?」




「おれは。 自分のことしか考えてなくて。 白川さんの気持ちなんか全然わかってなかった。 彼女の気持ちに無理やり封印させて。 つらいのは白川さんだけで。」



南も


彼の言葉の意味を深く考えた。



「あたしだってわかってるけど、」



「彼女だけがつらい気持ちを我慢してるんだ。 もう、どうすることもできないだろ。」


真太郎はボソっと言った。



「あたしは。 ゆうこが真太郎のことをすぐに諦めたりなんかできる子じゃないってわかってる。 あたしと真太郎が結婚しても。 でも・・仲良くやっていきたいって・・そう思って。 あたしはゆうこのことが好きやから! あの子と友達でいたいから・・・」



「それが自分勝手なんだよ。」



真太郎は振り返った。



「真太郎、」



「おれは白川さんのことは信頼しているし、・・好きだけど。 でも、それは違う気持ちだし。 おれがあの人に何をしてやれるって思ったら何もしてやれないし。」



南は


言いたいことはたくさんあったが


言葉が出てこない。



それは


やっぱり彼の言うとおりなんじゃないかという気持ちで


いっぱいになってしまったからであった。



「もう・・みんなで楽しくやっていけへんの?」



南はサイドボードに飾ってある


あの日の海の写真を手にした。



その質問には


真太郎は答えられなかった。






「え・・志藤さんが?」


南は真太郎から詳しい話を聴かされた。



「すっごいショックで。 自分の心の奥底に眠っていた気持ちを無理やり引き上げられた感じで。」


真太郎はそう言ってうな垂れた。



「そっか。」


南もゆうこがどれだけ自分たちのために傷ついてきたのかを思うと胸が痛い。



純粋に彼女と友達でいたいけど


今の彼女にはそれはつらいこと。



「まだここに来て間もないあの人に、ものすごく見透かされたように言われて。 おれはいったい何してたんだろって。 」



「なんか。 すごい人やな。」



南はつぶやくように言った。



「え、」



真太郎は南を見た。


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