第138話 愛の賛歌(2)

スポットライトが当たり


真尋のショパンに乗せて


二人が会場に入ってくる。




腕を組んで会場を歩いて


本当に


煌く笑顔で。



拍手の中


幸せに満ちている。





光の中の二人とは


対照的な


影にいる自分が


現実なのだと


ゆうこは思っていた。




まぶしすぎて


二人の姿をきちんと見ることができない。




そっと会場を出て、引き出物の整理に向かった。





宴は進み


真尋がピアノ演奏をすることとなる。



曲目は


『愛の賛歌』




志藤はスタッフと一緒に出入り口近くに立っていたが、


魂が抜かれていくかのような


気持ちだった。



全ての感情を


吸い取られていきそうで


腕を組んだまま


動くことができない。






彼女に


ウエディングドレスを着せてやることが


できなかった。


妻にすることも


できなかった。




彼女が逝ってしまってから


そればかり後悔した。



彼女の母親は


葬儀の後




籍に入る前でよかった




と、少し疲れた笑顔を見せたけど。




いつか、あたしもこのお墓に入るから。



って。




自分との


小さな命も一緒に彼女は


遠くへ


ひとりで逝ってしまった。



そのことを


彼女の母は気にしていた。




そっと


目の端に浮かんだ涙を手で拭った。




「本日はお忙しい中、私たち二人のためにお越しいただきまして、ありがとうございました。 まだまだ若輩者ではありますが、南と二人でどんなに苦しい時でも頑張っていこうと思っています。 そうやって歩いていける人をぼくは選びました・・」




披露宴の最後に


真太郎自ら招待客に挨拶をした。




そう


彼が人生を共にする女性を選んだのだ。




二人で歩くことは


一人で歩くことよりも


大変だ。



これから同じ場所まで


生涯変わらず


彼女を愛し


この人は歩き続けるだろう。




ゆうこはひな壇に立つ


二人をじっと見つめた。


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