第137話 愛の賛歌(1)

そして、仕度のできた真太郎もやってきた。



白が基調のタキシードが長身の彼によく似合う。



「・・おめでとうございます。」



ゆうこは深々とお辞儀をした。



「ありがとうございます。 色々ありがとうございました、」



真太郎も頭を下げた。




ゆうこは黙って南のブーケとおそろいのブートニアを出して、彼の胸に挿した。





もう


いいかげんにしなくちゃって


何度も何度も


考えた。




『大丈夫。 ぼくがいますから。』




大学生の彼に社会人の自分がそう言われて。




だけど


本当に彼の笑顔だけが


救いだったから。





すぐにダメージを受けてしまう弱い自分が


ここまでやってこれたのは



もう


彼がいたからとしか言いようがなくて。




『白川さんが頑張っていることはぼくが一番わかっています。』




『志藤さんが何て言おうと、ぼくは白川さんを信頼しています。』




どんどんと


思い出ばかりが蘇って。




『おまえはっ! 白川さんに何をした!!』




真尋と


危ない空気になってしまったときに


血相を変えて、助けに来てくれた。





自分のために


こんなに怒ってくれる彼が


本当に嬉しくて。





もう


彼への気持ちが


どんどんと溢れて


行き場がなくて


心がパンパンになる・・。




ゆうこは真太郎の胸に花を挿し終えて、



「じゃあ。 あたしは受付に行きます。」


静かな笑顔でそっと彼の前から去った。






「お忙しいところをありがとうございます。 こちらへどうぞ、」



ゆうこは披露宴にやって来た客に、にこやかに応対した。




もう


会場には真尋の奏でるピアノの音が


溢れていた。




「北都社長のご次男、ピアニストだったんですか?」


「雰囲気のあるピアノを弾きますねえ・・」



会場では口々に真尋のことを噂する声が聞こえる。




真太郎は何とか真尋の存在を世間の人たちに広めたかった。


いろんな業界の人々が集まる自分の披露宴はうってつけの場だと考えていた。



「ああいうピアノ弾かせたら・・誰も敵わないな、」



志藤はゆうこの背後からボソっと言った。



「え・・」



「・・バイトで弾いてるピアノバーが、あいつのときだけ満員になるって、なんだかわかる気がするって。 BGMなんだけど、その場の雰囲気を変えてしまう力があるから・・」




彼の言うとおり


思わず会場に入ってきた人たちは


この音に気づく。




もうすぐ


披露宴が始まる。

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