第139話 愛の賛歌(3)

さて。 現在の志藤家の日曜の朝です・・・




「ちょっとパパ! 起きてよっ!」



ものすごい勢いでベッドの上の自分の身体に何かが乗っかってきた。



「ぐ・・・」



志藤はゆうべ帰ったのが1時過ぎだったので、目は開けられないが無理やり意識を戻された。




「今日、ひなたと買い物行くって言ったの忘れたのっ!?」


そして、嫌というほど身体を揺すられた。



「う~~~。」


志藤は手だけ伸ばしてメガネを取り、何とか起き上がる。




今日は日曜日。


中学に上がるひなたに何かプレゼントを買ってやる、と気軽に約束をしてしまったことを激しく後悔した。




「覚えてるって。 もちょっと静かに起こしてくれるか~?」


げんなりして言った。



「だって! 楽しみで楽しみで。 ひなた早起きしちゃったんだもん!」




ひなたは満面の笑みで言った。


その笑顔に、思わず笑顔になって彼女の頭をくしゃっと撫でた。





「ね~。 これがいいかなァ。 こっちもカワイイ!」


渋谷に洋服を買いに来た。




こんなうちから女は買い物が長いんやなあ。




志藤は疲れてきてしまった。



「ひなたはカワイイからどっちでも似合うで。」


と言うと、



「適当に言わないで! 真剣に考えてよ~。」


ひなたは膨れっ面で言った。




親が言うのもなんやけど。



ひなたは


決して勉強はできないが、スポーツ万能で


明るくてリーダーシップがあって


友達の中心になれる活発な女の子に成長した。



5人兄弟の長女で、いやいやながらも妹や弟たちの面倒も見る


いいお姉ちゃんでもある。




それに


贔屓目ナシに


かわいいし。



バレンタインに男の子にチョコなんかやったことないのに


ホワイトデーには幼稚園の頃から男の子たちから色々貢がれて。





手も足もスラっと長くなって


髪もまっすぐで長くて


年よりも大人っぽく見えるけど


中身はまだまだ幼いひなたは


好きな男の子もいないんじゃないかってくらい


毎日友達と遊ぶので忙しい。





生まれたときから


自分に似てるって


みんなが言ってくれて。


今も


ほんまにおれによう似てるって思う。




鏡に洋服を当てて悩むひなたを見つめた。




「ね、パパ。 これふたつ買ってっていうの、ナシ?」



ちゃっかりしてて


憎めない。




「あんまり買うと、ママに怒られるなあ。」


志藤は結局、服を2着も買ってやってしまった。



「まあまあ。」


ひなたは笑って志藤の腕を取っていたずらっぽく笑った。





こうして腕を組んで歩いてくれるのも


いつまでなのか。


あんまり急いで大人になるなって


本当に思う。




こんなにも愛しくて大事なひなたが


ひょっとして


生まれてこれなかったかもしれないって



思うだけで


ゾッとする。

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