第98話 敵対(3)

絵梨沙のテレビ出演の収録があった。


南は前回と同じように彼女の衣装をスタイリストと相談して決めたりしていた。




「あ、こんにちわ。」


真太郎がその場にやって来た。



「こんにちわ。 ご無沙汰しています。」



「疲れてませんか?」



にこやかに言われて、絵梨沙も笑顔で




「いいえ。 南さんがいろいろお世話をしてくださって、」


と微笑んだ。




「あ、真太郎。 来たの。」


南もやってきた。



「ああ、様子を見に。」



南は素早く真太郎の後ろにいる彼よりも少しだけ背の高い男に目をやった。



「・・あ、」



勘のいい南はピンと来た。



「・・ひょっとして。 秘書課に来た新しい人?」


志藤にいきなりそう言った。



「え・・。あー。 うん。 志藤さん。 大阪支社から来てくれて・・」


真太郎が紹介すると、



「う・・わ~~~。 想像より、めっちゃいい男やん、」


南は見た目をそのまんま口にした。



「ちょっと、」


真太郎は彼女を小突いた。



「あなたが・・真太郎さんの奥さんですか?」



志藤も南を見てピンときたようだった。



「はい。 一応、籍はホクトの企画にあるんですが。 今は休んでいて。」


真太郎が説明した。



志藤は一歩前に出て、



「志藤と申します。 よろしくおねがいします、」



南にスッと手を出した。



「南です。 こちらこそ、」



と、笑顔で挨拶をした。




真太郎はハッとして側にいた絵梨沙のことを



「ウチ所属のピアニストの沢藤絵梨沙さんです。」


と志藤に紹介した。



「沢藤です。 初めまして。」


絵梨沙はペコリとお辞儀をした。



志藤は彼女を見て、にこーっと笑って



「日本のクラシック界の期待の天使、ですね。」



と言った。





天使~?




真太郎と南は思わず心で叫んだ。



「は・・?」



「びっくりしました。 実物がこんなにキレイな人だとは。 あなたみたいに美しい人がピアノを弾くと実に絵になる。 あなたはこれからどんどん売れていきますよ。 忙しくなるでしょうが頑張って下さいね、」


志藤はいつもの厳しい彼とは全く別人のように、にこやかに言った。



「ありがとう、ございます。」


絵梨沙は微笑んだ。




収録の後、打ち合わせで絵梨沙は社を訪れた。



「じゃあ、明日は雑誌と新聞のインタビューと・・コンサートの打ち合わせを、」


志藤はファイルを閉じた。



「ハイ、」



ゆうこが


「じゃあ、明日マンションまでお迎えにあがりますから。」


と言った。



「すみません、」



「いや、ぼくが行きましょう。」


志藤がそれを制した。



「はあ?」



ゆうこは面食らう。



「ぼくが送り届けます。」



「は、はい・・」


絵梨沙は困ったようにゆうこをチラっと見た。




「で。 これから食事に行きませんか? 何でも沢藤さんの好きなものをごちそうします、」


志藤はフツーに彼女を誘ったりしていたので、ゆうこは瞬間的に



「だっ! ダメです!」



と断ってしまった。



「きみを誘ったんじゃないでしょ・・」


志藤に迷惑そうに言われてしまった。



「じゃあ。 あたしも行きます!」



ゆうこは思わずそういってしまった。



「はあ???」



今度は志藤が驚いた。




絶対に


絵梨沙を彼と二人でどこかへ行かせてはいけない気がして。



ゆうこは


何故か、あんなにキライである志藤と食事をすることになってしまった。



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