第99話 接近(1)

なぜか。




フレンチレストランに志藤と絵梨沙とゆうこがテーブルを囲むことになってしまった。



「コースでいいですか?」



志藤は絵梨沙に言った。



「・・はい、」


絵梨沙は強引な雰囲気の彼に戸惑う。



「白川さんは?」


あからさまについでに訊かれて、



「何でも。」



不機嫌そうに言った。



「んじゃあ、きみはスープだけでいいか、」


と笑われ、



「ちょっと!! サラダくらいはつけてください、」



大真面目に言う彼女がおかしくて、志藤はメニューで顔を隠しながら笑っていた。



その時、絵梨沙の携帯が鳴った。



「すみません、ちょっと・・」


と、席を外す。




「あたしのことは気にしなくて結構です、」


ゆうこは志藤に言った。



「気にしなくて結構って。 勝手についてきて、」


大いに不満そうだった。



「心配だったから・・」


ゆうこはうつむいた。



「はあ?」



「あなたが絵梨沙さんに何かするんじゃないかとか・・」


と言われて、志藤は腕組みをして



「・・きみはバカか?」



思いっきり言われた。



「バカ??」



ゆうこは彼を見やった。



「バカだろう。 誰が。 商品に手を出す?」



テーブルを軽く叩いた。



「商品って・・」



「あの子はウチのタレントだろ? 芸能社のタブーだろうが。 そんなのに手え出すなんて。」


当然のように言われた。



「で、でもっ!」


ゆうこは志藤の大阪での噂が気になっていた。



「あ、社長自ら自分トコの女優に手え出しちゃったんだっけ?」


志藤は思い出してアハハと笑った。



「社長のことまで悪口を言わないでください・・」



ゆうこは腹の底から絞り出すような声で言った。




「そんな怖い顔して・・」



呆れていると、絵梨沙が戻ってきた。




「あのっ・・志藤さん。 すみません、」


絵梨沙は志藤に頭を下げた。



「え?」



「何だか母から電話があって。 すっごい熱があるって・・」



「沢藤先生が?」


ゆうこも驚いた。



「39℃もあるって言うんで。 申し訳ありません、帰らせていただきたいんですけど、」


本当に申し訳なさそうに言った。



「そんなの! すぐに帰ってあげなくちゃ。 あたしも送ります、」


ゆうこは慌てて言った。




「いえ。 大丈夫です。 ここから近いし。 本当にごめんなさい。」


絵梨沙は何度も志藤に頭を下げて帰ってしまった。





そして


二人が残された。




「あたしも・・帰ります。」




いたたまれなくなったゆうこが言った。



「って。 今さらどうすんの。 もう座っちゃってるし、」


志藤が言ったところで、



「お決まりでしょうか、」



ウエイターに笑顔で言われて。




なんで、あたし


この人と食事をしてるんだろ。



ゆうこは考えれば考えるほどわからなかった。



「きみは飲めるの?」


志藤はゆうこのグラスにワインを注いだ。



「大学時代ワイン研究会に入ってて、ザルと言われてました。」


ボソっと言った。



「え~? ザル? すごいなあ。 おれも強いけど、最近酒の強い女の子に会ったことなかったな~。」




酔わせて


何やってんだっつーの・・



ゆうこは心でつっこんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る