第87話 導き(3)

現在の志藤家ではゴタゴタがまだおさまっておりません・・


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「あなたはいっつも。 仕事のことは何も言ってくれないし。 悩んでいる時も、本当に追いつめられているときも、」


やっぱり


ゆうこは志藤を前にして泣いてしまった。


「だ、だから。 別に内緒にしてたわけやないって。 ちゃんと決まったら言おうと思って、」


彼女の涙には


本当に弱い。



「決まったらって。 どうしようかって悩んでいる時も。 あたしに相談しようかとか、そんなのもないんですか?」



ハンカチを握り締めながら言われても・・。



「ゆうこには心配かけたないねん。 ほんまに毎日子供たちのことで大変なのに、」


優しくそう言うと、



「南さんには心配をかけてもいいんですか!」



いきなり今度は怒り出す。



「南は仕事上の相方みたいなもんやん。 とりあえず言っておかないと、」


困ったように頭を掻いた。



「だから! その前にあたしにひとこと言って欲しいのに!!」



この


彼女の


『泣き怒り』


にも


本当に弱くて。



「も~~、だからさあ。 ゆうこが一番大事やから・・心配かけたくなかったんやんかあ、」


彼女の背中に手をやった。



そして


優しく抱きしめた。



「そうやって! いっつもごまかして、」


ゆうこは彼から離れようとしたが



「・・ごまかされて、」


志藤はニッコリ笑って、強引にゆうこを強く抱きしめた。




もう


悔しいけど


何度も


何度も


彼にこうやってごまかされて。



強引なキスも


今でも


とろけそうなほど


不思議に気持ちが


萎えてしまって。



ウソつきで。


本気がどこにあるかわからない。



出会った頃は


腹立たしいことばっかりだった。





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「へえ、そんな人が?」



ゆうこは真太郎に言った。



「ええ。 ぼくもね、面識はないんですが。 社長が直々に連れてくるくらいだから。 そうとうな人なんでしょう。」


真太郎は書類を整理しながら言った。




「ああ、南がこの前行ったフレンチのお店が美味しかったら、また一緒に行こうって・・言ってましたよ。」


そして話題を変えるように言った。



「ああ、代官山のですね。 ほんとワインもいいものを揃えてて。 あんまり高くなくて雰囲気のいいところでしたね、」


ゆうこはにこやかに言った。





彼らが結婚してからも


ゆうこは一緒に食事に行ったり、南とは休みの日にショッピングをしたりと


普通につきあっていた。




どこかで


自分の思いが遂げられなかった虚しさから目を逸らして


現実を見ようとしていないと


ゆうこは自分でも思っていた。




それでも


これで自分が引いてしまったら


きっと二人は


自分に気を遣い


ぎくしゃくした関係になることがわかっていて




今の居心地のいい空間を知らず知らずに


作っていたのかもしれなかった。


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