第57話 使命(1)

ゆうこはやや緊張気味に彼の言葉を待った。



「高原南のことは・・真太郎から聞いているか?」




どきんとした。





「は・・はい。」


静かに頷く。




「彼女、明日退院する。」




「え、」




小さな声を上げた。




「身体のほうは回復してきたようだが・・精神的に非常に参っている。 4月から東京本社に異動をさせることになったが、それもNYでの仕事を途中で切り上げることになってしまったことに責任を感じている。」




南さんが


帰ってくる・・。





色んな意味で


軽いショックを覚えた。




「しばらくウチのホテルに滞在させて、まだまだ休養をさせたいんだが。 彼女の様子を見てやってくれないか。」




意外な


言葉だった。



「あたしが、ですか・・」



「ウチの妻に頼もうかとも思ったのだが私の家族が世話をするとなると、また彼女は遠慮をするだろう。 無理をしてひとりでどこかへ行ってしまうのではないか、と思うし、」





あたしが


南さんの


お世話を・・。




一瞬


北都が自分の気持ちを知っているのか、と


恨めしい気持ちになった。



「きみにとっては余計な仕事だし、忙しい中本当にすまないと思っている。 ・・きみに頼むのも本当に心が苦しいが・・」




社長は


あたしの真太郎さんへの思いに


気づいているのかいないのか。



いや


たぶん・・


ほんの少し


気づいてる。



「お願いできないだろうか、」





北都は


ゆうこに静かに頭を下げた。



「社長、」



ゆうこはいてもたってもいられなかった。




あの


雲の上のような人で


いつも厳しくて、仕事を鬼のようにこなしている


北都が


自分に頭を下げている。



「やめてください、そんな。」




もう


胸が痛くて


痛くて。





「きみにはつらいことと・・わかっている、」





やっぱり


あたしの気持ちを知っていた。



社長にも


こんなに気を遣わせて。




きっとこの人も


南さんのことを


真太郎さんが思うように


同じように


大事に思っている。





ゆうこは目を閉じた。




そして


ゆっくりと口を開いた。




「あたしで・・よろしければ。 お力に・・」



自分じゃない


誰かが


そう言った気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る