第42話 アプローチ(4)

なんだ


この


モヤモヤした気持ちは。




電話を切った後


真太郎は思わず自分の胸を押さえた。



別に


二人の間に何があったわけでもないのに。



ていうか。


おれが白川さんのことを


どうこう思う権利はないし。



彼女には


幸せになって欲しいって


思うけど。




・・・・




口では言い表せない


『何か』が


ぐるぐると胸の中を渦巻いていた。



翌朝。



「おはようございます、」


真太郎が出社するといつものようにゆうこが掃除をしていた。



「お・・おはようございます。」


夕べの翔太の言葉を思い出してドキドキする。




『好きな人』


って。





真太郎は深く考えようとするが


やっぱりそれはできなくて。



『なんっか・・ずっる~~~、』



真尋にもそう言われたけど。



おれたちは


そんな言葉じゃ片付けられない


一緒に頑張ってきた仲間なんだから。



必死にそう言い聞かせていた。



「きれいですね、」


彼女が自分のデスクに置いていた小さなグラスに生けられた真っ赤なもみじの葉を見て、真太郎は言った。



「おとなりのおうちにあって。 ちょっとお願いしてもらっちゃいました。 もう秋も終わりですけど、」


ゆうこは嬉しそうにニッコリと笑った。




人事部の審査が済んで


玉田の入社が決まった。


少しずつ準備が整っていくが


真太郎には気がかりなことがあった。



「社長の心当たりの方というのは、」



まだ、その部署の要になる人間が決まっていない。


業を煮やして、真太郎は北都に言った。



「ああ。 交渉中。」


北都はあっさりとそう言った。



「交渉中って。 いったいどこの人なんですか?」



「なかなか難しい人間でね。 すぐには説得できそうもないんだが。 ・・それでも、絶対に連れてくるから。」



静かだが


力強くそう言われ、それ以上は何も言えなかった。




どんな人なんだろう。



自慢とかじゃなく


北都グループの総帥である父が


そんなに懸命に説得しなければ、来てくれない人なんて。



真太郎はそのまだ見ぬ人を想像してしまった。




彼が蒔いた種が芽吹こうとしていたが


ゆうこや南、そして真尋の運命を動かそうとしていた男は



まだまだ


彼らの前にやってくることはなく。



「あ、真太郎さん。 さっきお客様においしいケーキを頂いたんです。 今、紅茶を淹れますから。」


社長室から戻った真太郎にゆうこは明るく声をかけた。



「あ、はい。 ありがとうございます、」




いつもと


同じだった。



事業部の立ち上げと共に


自分の身に起ころうとしている劇的な展開を


ゆうこは知る由もなく


一途に真太郎を思い続けていた。


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