第43話 とまどい(1)

年が明けた。



「あけましておめでとうございます。」


真太郎は自宅リビングで父と母に挨拶をした。



と、言っても。



弟の真尋はウイーンから戻らず、妹の真緒も留学先のロスに行きっぱなしで。


3人の静かな新年だった。



「おめでとう。 今年は真太郎もいよいよ社会人ね~。」


母・ゆかりは嬉しそうに言った。



「まあ・・でも。 今までとそう変わらないし、」


真太郎はおせち料理に箸を伸ばした。



すると


母はにんまりと笑って



「真也さんとも話をしていたんだけど。 もう真太郎も一人前なんだから、自活したらどうかって、」



いきなり



そんなことを切り出した。



「は・・???」






「え? ひとり暮らしを?」



仕事始めであいさつ回りに一緒に借り出されたゆうこと真太郎だったが、移動中真太郎がその話を彼女にした。



「もう、いきなりなんですよ。 新年の挨拶の次に言われて。 さっそく部屋を探しなさいとか。」


真太郎はぼやいた。



「ほんとにいきなりですね・・」


ゆうこも少し驚いた。



「まだ、いちおう学生なんで。 敷金礼金と家賃は持ってくれるって言うんですけど。 生活費は自分で何とかしろとか言われて。」



「真太郎さんは自炊とかできそうな人なんですか?」


「したことないですよ。」


不安そうに言う彼に



「よかったら。 お手伝いします。 あたしも一人暮らしは経験ないですけど。 力になれることなら、」


ゆうこは少し嬉しそうにそう言った。



「ありがとうございます。 なんかどうしていいかわからなくて。」



「ここなんかどうですか? 学校と会社の中間地点で。 乗り継ぎ1回で来られるし、」



「でも。ワンルームじゃちょっと狭いかなあ。 本がたくさんあるんで。」



二人で


住宅情報誌を読み、部屋を探す。





そんな行為が


ゆうこにとってはこの上なく


嬉しい。



何だか


二人だけの世界にいるようで。



南のことも


今は


考えずに彼のために部屋を探す手伝いをしている自分が


嬉しくてたまらなかった。




部屋は割合すぐに決まった。


学生ひとり暮らしにしては少し広めの2LDKで、納戸もあり十分な広さだった。



「普通、学生さんじゃあ住めそうもないとこですけど・・」


その物件をゆうこも見せてもらった。



「当面の家賃は持ってくれるって言うんで。 ちょっと甘えて。 まあ、いづれは自分で払うことになりそうですけど。」


真太郎はため息をついた。



「真太郎さんは会社の仕事の他にモデルの仕事も少ししてるし。 まあ・・普通の新卒の人たちよりも余裕はあるでしょうし。 大丈夫ですよ。」


ゆうこはニッコリ笑った。



「引越しはいつですか? お手伝いします、」



そして


彼にそう言うと、


真太郎はふっと笑って



「それは。 業者の人に頼むし。 自分でしますから。 大丈夫です。」



優しく


そして


きっぱりと断った。



え・・。




ゆうこは一瞬、どきんとした。



「自分でやらないとね。 せっかく一人暮らしするんだし、ほんと、いろいろありがとうございました。」




そう言って


フォローしてくれたけど。



そこまでは


あたしには入られたくないって。


そう思ってることがわかった。




ゆうこは浮かれていた自分が


恥ずかしくなった。


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