第41話 アプローチ(3)

翔太は反射的にアクセルを踏んだ。



そして



「え、」



横目でゆうこを見た。



「好きな人が・・」



うつむきながらそういう彼女に



「好きな人、」


少し呆然としたように彼も同じ言葉をつぶやく。



「でも・・。 片思いですけど、」




少し


ゆっくり話をしたくて。


翔太は路肩に車を停めた。



「片思い?」



「その人には彼女がいて。 ほんと、片思いの見本のようなものです、」


ゆうこはふっと笑った。



「諦め切れないの?」


彼女の顔色を伺うように言ってしまった。


「諦められればいいのに。 夢を見てしまって、」



「夢?」




「二人でいるときは・・他の世界がないような気がします、」




すごく


胸が痛くなるほどの


切なさだった。



翔太はハンドルにもたれかかるように


「・・そっかあ、」


小さなため息をついた。


「すみません。 あたしなんかに、そんな風に言ってくださったのに、」


チラっと翔太を見た。



「いや。 まあでも。 言ってみないと始まらないもんね。 じゃあ友達でもいいから、」


翔太はニッコリと笑った。



「え、」



「友達でいいよ。 たまに電話をしたり、食事に行ったりとか。 きみが友達とするように、つきあってほしい。」



「翔太さん、」



「別に。 きみがその人のことを諦めて自分に振り返ってくるのを待ってるとかじゃなくて。 そうやって繋がっていたいんだ。 ダメ?」



ゆうこは首を横に振った。



「ダメだなんて。」



「良かった。 それでも今までよりは少しだけ近づけたからね。」


彼は嬉しそうにそう言って、ウインカーを出してまた走り出した。





真太郎は落ち着かなかった。


家に戻って、風呂に入っても時間ばかりが気になる。




そして思い余って


翔太に電話をしてしまった。



「ああ、今帰ってきたところだよ。」


彼は普通にそう言った。



「あ・・そうですか、」



何だか気が抜けた。



いったい自分は何を心配していたのか。




「ふられちゃったよ、」



少々、自虐気味に笑う彼に



「え、」



真太郎は驚いた。



「つきあって下さいって言ったんだけど。 好きな人がいるからって・・」




胸が


どきんとした。




「しょうがないよね。 あんないい子、彼氏はいてもしょうがないかなあって思ってたけど。 片思いだけど好きな人がいるって、あっさり言われちゃね。 だから、じゃあ友達としてつきあってって言ったけど。」



「それで?」



「それは、受けてくれたよ。 ほんと。 いいよね、白川さんって。 おれ、初めてオヤジについて北都社長の所に行ったときから、彼女いいなって思ってた。」



「・・はあ、」



「まあ、キャリアウーマンって感じじゃないけど。 おしとやかでいつも淹れてくれるコーヒーも紅茶も日本茶も。 すごく美味しいし。 社長室にきれいな花が飾ってあるだろ? それも彼女がしてるって言うし。 なんか、おれも27になって結婚したいなァって思うようになって。」



「け、結婚?」



真太郎は少し驚いた。



「ああいう子を嫁さんにしたら、ほんっと幸せだろうなあとか。」



そこまで


考えてたんだ。




真太郎は少しショックだった。



「まあ、慌てずに。 少しずつ彼女に近づければいいかなって。 24の女の子でいまどき片思いしてるなんて健気だし、」



「はあ・・」



もう


何を言っていいのかわからなくなった。



少し会話の間があって、



「そういえば。 真太郎くんの彼女は元気でやってるの?」



いきなり自分のことに振られて、



「えっ・・」



焦った。



「ほら、NYに行っちゃった・・」



「え・・ええ。 まあ・・元気、ですけど。」



「まだつきあってんの?」



「いちおう・・」




一度


翔太との食事に南を連れて行ったことがあった。




「そっか。」



翔太は何かを感じ取ったようにそう言った。


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