第40話 アプローチ(2)

「いいよね?」




翔太は真太郎にニッコリと笑いかけた。



「は?」



なんで自分に許可を得るのか。


戸惑っていると、



「真太郎くんも家まで送ってあげるよ。」



「い、いえ・・」


と、断ろうとしたが



いきなり二人きりにしてもいいものか、等


いろんなことが頭を巡ってしまい、それも尻すぼみな結果になった。



「あ、あたしは! 浅草で遠いので。 翔太さんは豪徳寺ですし。 反対方向ですから。 電車もまだ、ありますから。」


ゆうこは一生懸命に断ろうとしたが、



「もう11時半でしょ。 こんな時間に女の子ひとりで帰しちゃ、誘った身としては申し訳ないんで。 今、車回してくるから。」


翔太は強引に二人に言って、その場を立ち去った。



「どうしよう・・」



ゆうこは困ったようにつぶやいた。


「・・だ・・大丈夫です。 翔太さんは・・ほんと。 いい人ですから・・」



真太郎はもう


それしか言えなかった。



真太郎を家の前で先に下ろした。



「じゃあ、おつかれ~。 また、なんかあったら誘うね。」


翔太は明るく手を挙げた。



「あ・・ありがとうございました、」


まだ心配そうに頭を下げた。



助手席のゆうこが何となく不安そうな顔で真太郎を見ている。



だいじょうぶですから・・。



真太郎はゆうこに念を送った。




はあ・・。




ゆうこも心で頷いた。




そして車は走り出す。




車の中で


翔太は自分の趣味の話や、学生時代にラグビーをやっていた話をしてくれて


ゆうこは少しだけ緊張がほぐれた。




「・・びっくりした?」



信号待ちで止まった時、翔太がいきなりそう言った。



「え・・?」



「いきなり誘ったから。」



ニッコリと笑う。



「い・・いえ・・」


戸惑うようにうつむく。



「ずうっと前からね。 誘いたかったんだ。 でも。 北都社長の大事な秘書だし。 おいそれとは誘えないよなあって。 オヤジに見つかったら怒られそうだし、」



ゆうこは


胸の鼓動が速くなってゆくのが自分でもわかった。



「だから。 真太郎くんには申し訳ないけど。 誘ってもらったんだ。 ほんと、ぼくが思ってた通りの人だなあって、」



笑顔がすごく


優しい。



「つきあってる人とか、いる?」


どんどん畳み掛けるように話をしてくる翔太にゆうこは戸惑いながら



「い・・いえ、いませんけど・・」


ものすごく小さな声で答えた。




「なら。 ぼくとつきあってくれませんか?」



その言葉を


予測していたように。


ゆうこのドキドキは頂点に達した。



「つ・・つきあうって・・」


声が裏返りそうだった。



「ダメ、かな。 もしそうしてもいいなって思ってくれたら。 オヤジにはきちんと話するし、もちろん北都社長にも、」




もう


ジェットコースターのように


ゆうこは展開の速さに目が回りそうだった。



「・・すっ・・」



それを振り切るように大きな声を出してしまった。



「え?」



「好きな人が・・います。」




そう言って翔太を見た。





信号が


青に変わる。

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