第39話 アプローチ(1)

もちろん


真太郎は翔太の気持ちを汲んでいた。



何とかゆうこと近づくきっかけを作りたい、という


そんな感じだった。




「あ・・あのう、それって・・」



ゆうこはおそるおそる真太郎に確かめるように言った。



「・・結局。 翔太さん、白川さんを誘いたかったってことで、」


真太郎は困ったように言った。



「え~~~?」



思わず大きな声を出してしまった。



「あの・・翔太さんはぼくが高校までいた学校の先輩に当たる人で。 年は5つ上ですけど。 ぼくがここで仕事をするようになってから何かとかわいがってもらって。 遊びに連れて行ってもらったりとか。 すごく気さくで、優しくて。 面倒見のいい、いい人なんです。 そんなヘンな人じゃないし、」


真太郎は思わず彼を庇ってしまったが。




え~~~?


ど、どーしよう・・




ゆうこはそんな話をよりによって真太郎から持ち出されたことに


軽いショックを受けていた。




「ぼくも一緒に行くので。 ダメ、ですか? そんなに難しく考えないで、」


真太郎は翔太に断ることができなかったので、


申し訳なさそうに彼女に言った。





というか。


なんでおれが断る権利があるのか。





真太郎はその複雑な気持ちの中で揺れていた。





彼女は本当に


女の子らしいかわいい人で


普通なら


こうして男の人に言い寄られても全く不思議がなくて。




彼女の気持ちに


うすうす気づき始めてはいたけど。


だけど


自分は何もしてあげられないことにも


同時に気づいていた。




ゆうこは迷った末に



「・・わかりました。」



うつむいてそう言った。



「す・・すみません。」


真太郎はものすごい罪悪感だった。




シルバーレコードは大事な取引先でもあるし。


そこの社長の息子さんの誘いは


やっぱり、きっぱりとは断れないし。




ゆうこはモヤモヤとしながらも


食事だけだし。


と、割り切って承知した。






約束の店にやってくると、もうすでに翔太は待っていた。



「よかったァ。 ほんとに来てくれたんだ、」


ゆうこの姿を見て、笑顔を見せた。



「・・こんばんわ、」


ゆうこは少し恥ずかしそうに頭を下げた。



「遅れてすみません。 ぼくの仕事が押してしまって。」


真太郎はそう言ったが、



「そんなの。 来てくれて嬉しいから。」


彼は気にすることもなくニッコリと笑った。




「え? 白川さんのお父さんは大工さんなの?」



「はい。 ほんと頑固職人を絵に描いたような人で。 頭が固くて困ってます、」



「だから白川さんは手先が器用なんですよね。 社長室のカンタンな電気配線とかもやっちゃうし。 壊れた引き出しとかも、直してしまうし。」





気が進まなかったが


とりあえず話は弾んだ。





ゆうこも明るい翔太の話を楽しそうに聞いていた。





話もけっこう盛り上がり、その店に3時間もいてしまった。





「遅くなっちゃって。」


支払いを済ませた翔太が出てきた。



「こちらこそ。 ほんとにごちそうさまでした。」


二人は頭を下げた。




「もう遅いので。 車でお送りします。」




翔太はゆうこに言った。




「え、」



真太郎はかなりの酒豪の彼が酒を飲まずに食事をしていたことは


気になってはいた。


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