第26話 兄弟(1)

彼の


あんな姿


ちょっと


ショックだったけど。




すっごく


胸にクるものがあって。





こっちまで泣きたくなった。





ゆうこはタクシーの中で


さっきの真太郎の土下座のシーンが思い浮かべた。





弟にあんな


頭を下げて。



プライドだとか


そんなのも


関係ないくらい



あの人は


必死なのだ。






真太郎が再び真尋の部屋に戻ると、


赤ワインをひとりで開けて、グラスに注いで飲んでいた。




真太郎は黙って、もうひとつの椅子に座り


グラスを出して、その赤ワインを注いだ。



そして


徐に飲み始めた。




「・・のめねーんだろ、」




真尋はボソっと言った。



「・・ハタチに言われたくない。」



「おれは10代から鍛えてんの、」



その言い様に


「・・なんだ、ソレ。」


笑ってしまった。




真太郎はネクタイを緩めた。





世の大学4年生なんか


この時期


就活も一段落して


遊びまくってるだろーに。



こいつは


もう


すんげえ


働いてるし。





真尋はぼうっと真太郎を見た。




「なー・・」




頬づえをついて


真太郎に声をかける。



「ん?」




「・・あの人の気持ち、わかってんの?」




「え、」




意外な言葉を口にされてきょとんとした。



「・・白川さん、だっけ? 彼女の気持ち。」


真尋は自分のグラスにワインを注いだ。





それは


南からも言われたけれど。


全く


今までそんなふうに彼女のことを見たことはなかった。



彼女が自分をそんな風に思ってくれていることも


全然


気づかなかった。


だけど・・・





「気持ちって、なんのこと?」


わざと真尋に言い返した。



「なんのことって・・」



「彼女は。 ほんっと一緒に今まで頑張ってきたんだ。 あの『鬼』社長のシゴキに耐えて。 どんなにキツイこと言われても。 お互い励ましあって。 ずっと一緒に仕事をしていきたい、」


真太郎はまっすぐに真尋を見た。




もし


本当に


彼女の気持ちが自分にあるとしたら


それは


申し訳ないけれど


気づかないフリをしたい。




恋愛とか


そういうのではなくて。


自分たちしかわからない絆があって。


それを


壊したくない。


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