第27話 兄弟(2)

「・・なんっか・・ずっる~~~、」




真尋はため息混じりに言った。



「え?」



「自分はさあ・・南ちゃんて彼女いながらさ。 彼女はキープ、みたいな?」



「キープなんて! シツレイなことを言うな、」


真太郎はムッとして言い返した。




「彼女。 ほんっと真太郎のこと思ってるなあって。」



『あたしは真太郎さんの望みは何でも叶えてあげたいんです!!』



ゆうこの必死な言葉を思い出す。



「すんげえ・・かわいいってゆーか。 見てらんないってゆーか。 もう・・かわいそうになって。」



真尋はさっきの自分の行動を


言い訳のように


説明した。




「ほんと、悪い男だな、おまえ。」


そしてとどめのように言われて、



「おまえに・・言われたくねえって、」


真太郎は口を尖らせた。




真太郎は


酒には全く弱く。


普段はほとんど飲まない。


成人した後は、父に連れられてパーティーなどにも行ったりするようになったが、そういう場でもつきあい程度でほんの少し口をつけるだけだった。




もう


ワインを何杯飲んだか。



ものすごく


頭がボーっとしてきた。



「なんで。 急にクラシックなんかやろーって思ったの、」


真尋は全く酔っていないようだった。



「・・おまえの演奏見て。 ほんっと・・すっげーって思った。 クラシック音楽にこんな力があるのかって。 それから・・いっぱいCDとかDVDとか・・買って来て。 オケって・・いいなあって。 いろんな楽器がひとつの音楽を造りだして・・。 前から好きだったけど・・自分の手でそれが・・できたらって・・」


真太郎は言葉もおぼつかなくなってきた。



「おまえが。 音楽に戻りたくなった気持ちも、ものすごく・・よくわかって。 なんとか・・一緒に頑張っていけないかって、」



真太郎はもうフラフラになって


ベッドに倒れこむように眠りながら話しているようだった。





「酒・・よえ~~~。」


真尋はふっと笑ってしまった。







ん??



真太郎は重いまぶたをゆっくりと開けた。




身体が重い・・と思ったら


真尋の足が自分のおなかの上に乗っていた。



「・・お・・おも。」


それを鬱陶しそうに乱暴にどかした。



あ~~~。


結局。


土下座しただけで。


酔っぱらって


寝ちゃって。



真太郎は自己嫌悪に陥った。




もう


8時になるし


今日は学校に行かなくちゃ、だし・・。




まだ


グウグウと眠っている真尋を置いて、部屋を出た。



真尋がウイーンに帰るまであと2日。





真太郎は夕方ごろ出社した。


二日酔いで結局、講義に出ても


ほとんど身に入らなかった。





「あ、おつかれさまです、」


ゆうこが立ち上がった。



「・・夕べは・・どうも、」


「顔色、悪いですけど・・」


「いえ・・何でも・・」


疲れた様子でデスクについた。




それから1時間ほどしたあと。


ゆうこが給湯室で洗い物を終えて出てくると、



「よっ!!!」



いきなり真尋が現れて、ぎょっとした。




「まっ・・真尋さん!」



夕べのことを思い出し、思わず身構えてしまった。



「あ~~、なんもしないし! 白川さんのコーヒー飲みたいな。 淹れてくれる?」


とニッコリ笑った。



本当に


いたずら小僧のような笑顔で。


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