第17話 登場(1)

東京では


『真尋獲得プロジェクト』が


『クラシック部門』設立草案と共に動き出していた。



「じゃあ・・その先生には話がついたわけですね。」


ゆうこは書類に目を通した。



「南が話をつけてくれて。 先生もプロダクション契約をして徐々に日本で活動するのもいいんじゃないかって。 真尋はプロ向きの演奏家だからって。」


真太郎は嬉しそうに言った。



『南』と彼女のことを呼び捨てにするのも


まだ


ちょっと心が痛むけど。



「でも・・普通はお父さまの会社と契約をって、思うんじゃないでしょうか。 こんな回りくどい説得の仕方、」


ゆうこは疑問を口にした。


真太郎はため息をついて、


「ホントにね。 変人だから。 んで、こうと決めたら絶対にテコでも動かないし。 だから、周りを固めておかないと。 先生の太鼓判があれば・・心強いし。 で、その沢藤絵梨沙さんの東京にいるお母さんもね、オケのことでは協力してくれるって言ってくれてて。 彼女にもいろいろ口添えしてもらって。 でも、真尋にバレるとうるさいから黙っててって。」


少し困ったように言った。



「・・なんだかお会いしてみたいですね。 真尋さんに、」


ゆうこはすごく興味を惹かれた。



「ああ、そんなに上等な男でもないし。 あんまり期待しないでください。」


真太郎は苦笑いをした。



そして。


静かな昼下がり。


いきなり秘書課のドアがバーンと開いた。



ゆうこ一人で仕事をしていたが、びっくりして思わず立ち上がって振り返る。


そこにはサングラスに革ジャン、ガムを噛みながらのそっと入ってくる大男が。


ドアの天井部にぶつかるんじゃないか、と言うほどのガタイのいいその男に



だっ・・だれっ!?



ゆうこは思いっきりの不審者に身構えた。



そしてその男は怯えるゆうこに目を留めた。



「え? ココ? 秘書課って・・」




ものすごく態度も悪い。



「は・・はい・・そうですけど・・」


震える声で言った。



男はつかつかと彼女ににじり寄る。



「な・・なんですか・・?」


ゆうこはファイルをタテにして後ずさりをした。



「今、受付で思いっきり止められた。 すんげーシツレイだと思わね~?」



そりゃ


止められるでしょうよ・・。



そう思ったが、



「ど、どちらさまですか??」


勇気を振り絞って訊いた。



その男はサングラスを外して


「・・真太郎は?」


と言い放った。



「はっ???」



「なに? いないの? 人呼びつけといて? 何様~~?」




まさか





ゆうこはスケジュール表を慌てて確認した。



今日は


例の真太郎さんの弟さんの真尋さんが


フェルナンド先生と日本にやって来る日。



この人????



ゆうこは大きな目をもっともっと丸くした。



「あの・・ひょっとして。 北都真尋さんですか・・?」


と尋ねると、



「あれ? おれのこと知ってた? ひょっとして結構有名?」


彼の態度が一変した。



やっぱり・・。



でも


普通は絶対に気づかない!



なぜなら


真太郎さんとは似ても似つかない兄弟だから!



それに・・


彼が会社に来ると言ったのは


明日のはずだった。


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