第18話 登場(2)
「え~~! うっめ~~! コレ、どこのケーキ!? すんごいうまい!!」
まるで
ライオンに肉を放り投げた時のように
彼はケーキにかぶりついた。
「これは・・あたしが、秘書課のみなさんのおやつ用にと焼いてきた・・チーズケーキですけど、」
ゆうこは圧倒されながら言った。
「え! 手作り!? すっげー! コレ、売れるって!」
みんなに作ってきたのに。
ワンホール、あっという間になくなってしまった。
「で、なに? オヤジもいねーの?」
真尋はコーヒーを飲みながら言う。
「真太郎さんと外出されていて。 もうそろそろお戻りになると思いますけど、」
「真太郎もさあ、学校行ってんのかね~。 すっかり会社人じゃん、」
自分のバッグからマンガを取り出してパラパラと読み始めた。
「大学の講義がある日もきちんと出社されて。 本当に大変なのによくやってらっしゃいます、」
ゆうこは真太郎を庇った。
「東大出ても出なくても。 北都は真太郎のものになるし。 ほんっと勉強好きだよな~。」
弟なのに。
兄をバカにするような発言。
ゆうこは少しムッとした。
「あ、ねえ。 あんたは秘書課の人でしょ?」
おまけに
『あんた』呼ばわりだし。
ゆうこはため息をついて、
「あたしは社長の秘書をしている白川といいます。 真太郎さんと一緒に仕事をさせていただいています、」
と、ちょっとムッとした口調で言った。
「へ~~。 そーなんだァ。 いくつ?」
思いっきりの年下に言われて、
「・・24ですっ。」
さらに語気を強く言った。
「24? 見えない~。 女子大生って感じだよね。」
アハハと笑われて。
社の息子じゃなかったら。
もっともっと
言ってやるのに!
ゆうこは奥歯がぎしぎしと言わんばかりに悔しがった。
ほんっとに
ピアニストなのかしら・・
こんなプロレスラーみたいなガタイで。
繊細さのかけらもなさそう。
彼女の沢藤絵梨沙って
すんごい美女らしいけど。
ほんとにつきあってんの??
もう
疑問符だらけだった。
そうこうするうちに。
「真尋??」
真太郎が戻ってきた。
「も~。 待たせるなよ~。 寝ちゃったじゃん!」
真尋は妙な逆ギレをした。
「って・・ここに来るのは明日って言っただろ?」
ゆうこは横で話を聞きながら
そうそう、とうなずいた。
「え? そーだっけ? なんか時差で忘れちゃった。 お昼ころ成田についたばっかなんだよ? わざわざ直行したってゆーのに。」
確か
ハタチくらいなのに
小学生か?というような口の利き方。
「忘れちゃったって・・。」
真太郎はため息をついた。
「まあいい。 時間はあるの?」
「今日は別になんもないから。 明日の午後から先生の仕事にくっついてくけど。」
真尋は相変わらずマンガを読みながら言った。
「んじゃあ。 先に話、しようか。 ちょっと。 こっち。」
と、ドアの外を指差すと
「え、ここでいーじゃん。 めんどくせえ。」
ロコツに嫌な顔をした。
「大事な話なんだ。 早く来い。」
と無理やり彼の腕を引っ張って立ち上がらせた。
そして真太郎はゆうこを見やって
「白川さんも、」
と言った。
「あ・・はい。」
『あの話』を切り出すつもりらしかった。
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