第14話 衝撃(2)

「あ、ゆうこちゃん。 今日、どっかでゴハン食べていかない? ほら、明日であたしもこことしばらくお別れやし、」



南に背中を叩かれて、ハッとした。



「え・・」


「あたしさあ、ここに入ったのも中途やったし、すぐにNY行っちゃって。 あんまり女の子の友達でけへんかってん。 なんっかもう、ゆうこちゃんみたくいろんなこと話せる子も初めてっていうか、」



彼女の笑顔が


こんなに


痛いなんて。




「ご・・ごめんなさい。 今日は、ちょっと・・用事が・・」


ゆうこはとっさにウソをついてしまった。



「え、ほんま? 残念やな。 ま、でもまたこっち来ることあると思うから。 そのときね、」



この気持ちはなんなのか。


ウソをついた自分への後悔の念と


そんなに優しい言葉を掛けてくれる彼女への


たまらない気持ち。



「あのっ・・」


ゆうこは思い切って南に声を掛けた。



「え?」



「南さんは・・・真太郎さんとおつきあいをされているんですか?」


自分の気持ちにブレーキを掛ける前に言葉が出てしまた。



「・・え、」


南は固まった。



「・・そう、なんですか?」



なぜ


固まってしまったのか。



それは


一瞬のうちに


彼女の必死な思いがビンビンと伝わってきたからだった。



南は少し戸惑いながらも、ふうっと息をついて、




「・・うん、」




と、正直に頷いた。



ゆうこの心は


あっという間に


ガラス細工のように砕け散り。



「彼のが先にここで仕事するようになったんやけど。 ウチのお母ちゃんが死んで・・あたしもここに来はじめたころからかな。 弟をこっちに呼び寄せて暮らすようになって。 勉強の面倒をみてもらったり、ほんっと真太郎にも力になってもらって・・」



南はいつもの彼女の早口な口調ではなく


ゆっくりと


話をした。



「悩んだけどね。 あたしのが4つも年上やし。 彼は何と言っても・・ホクトグループの跡取りやし。 あたしなんかでいいわけないって。」




どうしよ・・



出そう・・




ゆうこは必死に『涙の元』を締めていた。



「今はね。 彼のために頑張りたいって。 そう思う。 NYに行くこともいつかは彼の力になれたらって・・思って、」



ゆうこはハンカチを握り締めた。



そんな彼女の様子を見て南は


「真太郎、ほんまにゆうこちゃんのこと感謝してる。 自分ひとりではやってこれなかったって・・」


つぶやくような声で言った。



「も・・いいです。」


ゆうこは思わず言ってしまった。



「え、」


「もう。」


ゆうこは彼女に背を向けてしまった。




南は


自分の直感が正しかったことを確信した。



「・・あたしは。 これからも社長と真太郎さんのために仕事を頑張ります。 それだけです、」


声が震えていた。




いったい


どんな声をかけたらいいのか。


南はわからなかった。




「お先に・・失礼します、」


ゆうこは南に顔を見られないように、さっと部屋を出て行ってしまった。



南はうつむいて


小さなため息をひとつついた。




あたしが


彼を知る前から


ずっとずっと


前から


あの二人は


深く結びついて。



遠く離れ離れになっても


ずっと・・。



バカみたい



見ちゃった。



ゆうこは歩きながらも涙が止まらなかった。

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