第13話 衝撃(1)

「もう、寝てもうたやん、」



南は目をこすりながらドアを開けた。



「ごめん、ごめん。 何とかなった・・」


真太郎はスーツの上着を脱いで、ネクタイを緩めた。



「ゆうこちゃんは? 帰ったの?」



「ウン。 危ないからタクシーで。」



南は彼のスーツをハンガーに掛けながら



「いっつも・・そうやって仕事してるんや、」



ボソっと言った。



「え?」



「ゆうこちゃんと。」



南は真太郎を見た。



「そりゃ。 二人で社長のサポートの仕事してるし、」


彼女の言う意味がわからず、手探りな答えをしてしまった。



「おれが彼女を助けるばっかりじゃなくて。 前におれがすんごいミスして。 社長からも怒られて。さすがにヘコんで会社休んじゃったことあってさ。」


真太郎はベッドの脇に腰掛けた。



「え、ほんまに?」



「うん。 今まで自分がこんなミスを犯すなんてなかったし。 なんっかショックで。 学生だからって甘えてたのか、とか自分がイヤになって。 そういう時も、彼女が助けてくれて。 一生懸命励ましてくれて。」



南はそっと彼の隣に座って、彼の肩にもたれかかり


「そういうとき。 なんで側にいられへんかったんやろ。」


ポツリと言った。



「南?」



「自分でNYに行くって言ったくせに。 自分勝手やけど。 一生懸命励ますのはあたしであって欲しかったかなって・・」



いつもは


どこまでも明るくて。


彼女をつかまえておくほうが本当に大変なのに。


そうやって


人の気持ちを揺さぶるようなことを言って。




「でも。 この時間は意味があったなあって。 思うよ、」


真太郎も彼女の頭にもたれるようによりかかった。



「行かないでくれって・・泣いたくせに、」



「あれは・・。 おれも、コドモだったし・・」


真太郎は少し赤面をした。



「ほんと。 大人になったね。」


南はつくづく言った。


「ようやく・・もうすぐ社会人になれる。」


真太郎は本当に嬉しそうに笑った。


「あのまま、ずっと南と一緒にいたら。 おれは甘えてダメになってたかも。 寂しくて、どうしようもないときもあるけど。 だけど・・こうして一緒に仕事をする日が来るとは思わなかった・・」


彼女の手をぎゅっと握った。


南は真太郎に抱きつき、



「・・だいすき。 真太郎・・」



泣きそうな声で言った。




ゆうこは北都が自宅に忘れてきたと言う書類を彼の自宅まで取りに向かった。



「もう、ごめんなさいね。 ゆうこちゃんに迷惑を掛けて、」


北都の妻・ゆかりがリビングにやって来た。


「いえ。 近いですから、」


ゆうこは慌てて立ち上がった。



「たまには夕飯にもいらっしゃいよ。 真太郎も早く帰れる日に。」



「あ、いえ・・」



ほんのたまに


ゆかりに誘われて、北都や真太郎たちとここで夕食を採ることもあった。


会社とは違った真太郎の一面も垣間見えて



まるで


自分も家族のように思えてしまう錯覚に陥ったりして。



「あ~、でも。 今はダメか・・あの子、帰ってこないし・・」


ゆかりはため息をついた。




「え・・?」



「ほら、南ちゃんが来てるでしょ?」



彼女のその言葉を理解する前に



「したら、もう彼女のところ入り浸ってるんだから。 一昨日も、服とか教科書を取りに帰ってくるだけで、」



ゆかりはどんどんしゃべりはじめた。




「え・・」



ゆうこは驚き、


そして


胸だけがドキドキと鼓動した。



「ま、しょうがないわよね。 もうかれこれ1年半以上離れ離れだし。 あ、これ。 書類。 真也さんが言ってたところにあったから大丈夫だと思うわ、」


封筒を手渡され、ゆうこは呆然としたまま受け取った。



そこから


会社に戻る電車の中でも


もう


どうにかなりそうなほど


頭がパンパンだった。



理解したいけど


理解・・したくない。



だけど


心のどこかで


『予感』もしていたかもしれない。


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