第12話 友情(3)

真太郎はハッとして時計を見た。


もう10時を回っている。


慌てて携帯を取り出した。



「はあ? パソコンがトラブった?」



「白川さんが明日の資料を作ってて。 これ明日のアサイチに必要なんだ、」



「ゆうこちゃんと?」



「うん。 ごめん、もうちょっとしたら行けるから、」




ゆうこが部屋に戻ってきた。


おなかが空いただろう彼のためにサンドイッチを買ってきた。



そして


彼が電話中であることに気づいて、そっとドアを閉めた。



「・・え? ああ・・いいよ。 ウン。 あ、そっか・・じゃあ、用意しといてくれる?」



いつもとは違う雰囲気の


彼の声。




時折、ふっと微笑んで。


たまに。


こんな顔をして残業中に電話をしている彼を見かけたことがある。



『彼女』


だろうか。


と何度も思ったが。



何だか怖くて訊けなかった。



自分はかなり真太郎とは仕事上密接しているけれど


正直


彼女の影はひとつもなかった。



そして


はっきりと訊くこともなかった。



だけど


その『影』は


いつもいつも感じていた。



2年間


一緒に頑張って仕事をして。


自分がくじけそうな時は


励ましてくれて。



逆に


学業と仕事の両立が何とかできるように


真太郎のことは必死でフォローもしてきたつもりだった。



おこがましいようだが。


彼に自分以上に


近しい女性がいるなんて


想像もしたくなかった。



真太郎は電話を切るとゆうこがそこにいたので少し驚いた。


「あ・・すみません。 サンドイッチを買ってきました。 今、温かいコーヒーを淹れます、」



「ありがとうございます、」





真太郎の笑顔が


何だか胸に突き刺さる。




そしてさらに1時間ほどしたあと、


「あっ! 直った!」


真太郎は思わず大声を出してしまった。



「え、ほんとですか!」


ゆうこも駆け寄った。



カーソルが


戻ってきている。



「よかったあああ、」


ゆうこは心からホッとした。



「すぐにバックアップを。 プリントアウトもしておいたほうがいいかもしれません、」



「はい、」


慌てて取り掛かった。






全てが終わったのは12時近かった。



「タクシーで帰ってください。 危ないから、」


真太郎はゆうこに言った。



「いえ、まだ終電あります。」


時計を見たが、



「ご両親も心配します。 だから、」


真太郎はゆうこに半ば無理やり言い聞かせた。



「本当にすみませんでした。 ご迷惑を、」



「いいんです。 こんなこと。 白川さんからもぼくはたくさん助けてもらいましたから、」



将来の社長を約束された人で。


遠い遠い


手の届かないところにいる人なのに。


夢を見てしまう自分。




ゆうこは彼の笑顔を見るたびに


いつも


切なく


苦しくなる。

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