第11話 友情(2)
「え~? 白川さんのウチに泊まっちゃったの?」
真太郎は驚いて南に言った。
「ウン。 めっちゃ楽しい家やった、」
いつもながら
彼女の人懐っこさには感心する。
「前に白川さんが仕事で夜遅くなったから家まで送っていったことがあって。 そんとき、お父さんにカレシと間違われてさあ。 ぶん投げられた・・」
真太郎が思い出してそう言った。
「え~? ほんま?」
南は思わず吹き出してしまった。
「もうね、娘・命みたいなお父さんだったし。 こんな人が今の平成の世にいたんだ~ってくらいのお父さんだったな、」
「でもね、めっちゃ下町のお父ちゃんて感じで。ぶっきらぼうやけど、お酒飲むと楽しいお父ちゃんやった。」
「そう。 そのあとね。 誤解だってわかって、なんっか宴会に巻き込まれちゃって。 あれはスゴかったな・・」
「アハハ! すごそう! わかる、わかる。」
南はおかしそうに笑った。
「今日は、早く戻れると思うから・・」
真太郎は真面目な顔になって言った。
「ん、」
南も嬉しそうに頷いた。
「真尋の先生のマーク・フェルナンドさんが、今月の末に仕事で日本に来るらしいよ。 さっき聴いた情報によると、真尋も一緒かも、」
南は電話を置いて真太郎に言った。
「え、本当?」
「彼の生徒のマサヒロ・ホクトも一緒だって、先生の弟子みたいな人が言ってたから。 チャンスとちゃう?」
「ファックスが送られて来ました、」
ゆうこがフェルナンドのスケジュールが書かれたドキュメントを持ってきた。
真太郎はそれにざっと目を通した。
「ウン。 話をする時間はありそう。 真尋に話す前にこの先生に相談しておいたほうがいいかも、」
南も覗き込んだ。
「先生に相談か・・」
「なんならあたし直接連絡するから、」
「じゃあ、お願いします。 そしたらあとはおれが、」
「会合場所は押さえますから、」
ゆうこも言った。
いつの間にか
同じ目標に向かって3人は走り始めた。
北都社長はこの件を真太郎に一任していた。
彼が言い出したことでもあるし、ひとつの仕事をまっとうすることを覚えてほしいこともあり、口出しは一切しなかった。
真太郎はここへ来て初めて
大きな仕事を任された気がして
やる気に満ちていた。
南が日本にいる間は
彼女の泊まっているホテルに真太郎も宿泊していた。
昨日は忙しくて一緒に過ごせなかったので、今日は早く帰ろうと仕事を進めていたのだが
帰り際
「真太郎さん! すみません、ちょっと。」
ゆうこが慌てた様子でやってきた。
「え?」
「明日の会議の資料、作ってたら・・パソコンが急に動かなくなって・・」
「え~?」
真太郎はパソコンの前に座った。
「バックアップは?」
「それが・・してなくて・・」
ゆうこは気まずそうに小さな声で言った。
「え? してないんですか?」
「・・はあ。一段落したらセーブしようと・・思って、」
資料は全部で40ページに渡るもので、ゆうこは夕方からずっとこの仕事に取り掛かっていた。
「ドキュメント作成する時は、とりあえずセーブでしょう・・」
真太郎は思わずぼやいてしまった。
「・・すみません、」
ゆうこは小さくなった。
パソコンは
何をしても動かなかった。
時間だけが過ぎてゆく。
「あの・・作り直しますから・・」
ゆうこが申し訳なくなって真太郎に言った。
「これ作り直したら何時になるかわかんないよ。 会議は明日のアサイチだし、」
「でも・・」
「もうちょっと頑張ってみますから、」
真太郎はゆうこに微笑みかけた。
おっそいなァ・・
南はホテルの時計を見た。
今日は早く帰れるって言うたから。
食事でもしよかって思ったのに。
小さなため息をついた。
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