第10話 友情(1)

明るい母と兄、頑固そうだけどお酒が入ると陽気になる父。


南はあっという間に白川家に溶け込んでしまった。



「でもNYにも転勤なんて。 女の子なのにエライねえ、」


母が言う。



「ああ、全然! あたしは出世した~って思って張り切ってますから! ほんま仕事楽しいし。」



「えらいっ! 女なのにそれに甘えないで仕事するってのは!」


父も上機嫌に膝を叩いた。



「拓馬! おまえも見習え!」


と指を指され、



「ったく、うるせ~。」


拓馬は苦々しい顔をしてビールを飲んだ。



「お兄さんはお父さんの仕事を継いでるの?」



「ウン。 上の兄貴は一応、大学の建築科とか出て今は建設会社でサラリーマンしてるんだけど。 おれは高校出てすぐ見習いで入って。 即、現場。」


拓馬は言った。



「父子で一緒の仕事っていーですよね。 ウン、やりがいもあるし楽しそう。」


南は笑った。



「こいつがまた覚えが悪くて。 っとに学校の勉強もロクにしてこねーから。 漢字も書けねえし。 口答えばっかりしてて、生意気で。」


父はジロっと拓馬を睨んだ。



「あんたの頭がガッチガチだからだろ!」


拓馬も負けずに言い返す。



「なにィ~?」


怪しい空気になってきたが、


「あーもう。 食べてるんだからさ。 うるさいね。 外でやんなよ。」


母がその一言でその場が収まってしまった。


「だからさ・・お客さん来てるから。 も~、カンベンしてよ・・」


ゆうこはまたため息をついた。


「ほんっまにお母さんのお料理も最高に美味しいです! ええな。 なんか賑やかな家庭で。」


南はちょっとしんみりとして言った。



母子家庭で


お母さんも亡くして。


弟を養って頑張って生きてる。



そんな南の境遇を思い出し、ゆうこも思わず箸を置いてしまった。



キャバクラで仕事してたとか


びっくりすることもいっぱいあったけど



ほんと


苦労してるんだろうなあ。


あたしにはとってもわからない。


だけど


本当に明るくて。



「ね、良かったら泊まって行かない? 帰る時間気にしなくてもいいし、」


母が南に言った。



「え、いいんですかあ?」


南も酔っぱらってきてノリノリだった。



「いいわよ。 泊まって、泊まって。 むさくるしい男どももいるけどさあ、ゆうこと一緒の部屋ならなんもないだろうし、」



「おい!  おれが何かするとでも思ってるのか!?」


拓馬は反論した。



「アハハ~。 お兄ちゃん、おもろ~。 何かあっても別にいっか!」


南は明るく笑って、みんなも大笑いになった。



みんながどんちゃん騒ぎになってるときに



「・・ただいま・・」


長兄が帰って来た。



「あ、おっかえり~~!」


真っ先に応えたのが南だったので面食らった。


「・・どっ・・どちらさん??」


「あ、コレ。 長男の和馬。 サラリーマン、」


母が簡単に紹介した。


「サラリーマンだって! アハハハっ!」


みんま酔っぱらってもう何がなんだかわからなくなっていた。





「またいつでもいらっしゃいね。」



母の笑顔に送られて、


翌朝、南はいつまでも手を振って、ゆうこと一緒に白川家を出た。



「なんか・・ほんっとすみません、」


ゆうこは夕べのドンチャン騒ぎを思い出し、南に申し訳なさそうに言った。



「え~? なんで? めっちゃ楽しかった。 ほんま、いい家族やな。 うらやましいくらい! ゆうこちゃんが、あんなに家庭的なのもこうやって家族に大事にされてるからやんな。」



いつのまにか


『ゆうこちゃん』


なんて呼ばれて。



「いえ。 うるさいだけです。 父はあの通り、すんごい頑固で。 わからずやで。 兄たちもいろいろうるさいし。 時には近所の人まで口を挟んでくるし、」


ゆうこはため息をつく。


「それでも。 お兄さんたちだって・・ああやって実家にちゃんと住んでるし。 やっぱり居心地いいってことやん?」



南の言葉に


ゆうこも少しだけ頷けるものがあった。



「家族はね。 どんな時でも一緒にいるもんやん。 今はうるさいって思う親だって。 いなくなると・・どんな親でもいて欲しかったかなって・・」



亡くなったお母さんのことを思い出しているんだろうか。



彼女の横顔を見てそんなことを考えてしまった。


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