第6話 出会い(3)

「おはようございます。 お早いんですね、」




南は早めに出社して、外出の準備をしようと思ったのだが



ゆうこがもう出社していて声を掛けられ驚いた。




「白川さんも、めっちゃ早いやん。 今日、なんかあるの?」



「いいえ。 あたしはいつもこのくらいには出ていますから。」



「いつも?」



「ええ。 社長室の掃除をしたり。」



「社長室めっちゃキレイになってたもんなァ。 飾ってあるお花も趣味いいなあって。 白川さんが?」



「・・はい。」


ゆうこは恥ずかしそうにうつむいた。




「あそこに置いてあった灰皿も社長が白川さんが作ったんやって?」



「陶芸が趣味なものですから。 お恥ずかしいんですが、社長に使っていただいてます。 高原さんはコーヒーと紅茶、どちらがお好きですか?」



「え・・あ・・紅茶・・」


ぼうっと答えると、



「ハイ。」


ゆうこはニッコリと笑って、給湯室に引っ込んだ。



そして


出てきた紅茶を飲んだ南は


「これ・・喫茶店の味やん、」


と驚いた。



「オーバーですよ・・。」


ゆうこは笑った。



「ううん、ほんま! 休憩室にあるのと大違い! 美味しい!」



「他にとりえがなくて、」



はにかんで笑う彼女に


南は何とも言えない


『癒し』を感じてしまった。



真太郎は神妙な顔で北都の前に立っていた。



「ウチに『クラシック部門』を創設したい、と思うのですが。」




北都はいつもの突き刺さるような厳しい目を真太郎に向けた。



「クラシック・・?」



「オーケストラを・・作りたいんです。」



彼の言葉を北都は黙って聞いていた。



「ウチ主体のオケですが。 スポンサーを募って。 今朝、早めに来ていろいろ調べました。 運営については、まだこれから具体的なことを練って・・」



「・・・・」


まだ黙っている北都に


真太郎はスーツのポケットからDVDを取り出した。




「これを・・。 見てください、」


そしてスッとデスクに差し出す。



「これは・・?」



「真尋のNYで行われたコンチェルトの映像です。 南がNYの知人に頼んで焼いてもらってくれました。」



「真尋の、」



「この前、契約した沢藤絵梨沙もいづれは『クラシック部門』の所属にして。 そして・・ピアニスト・北都真尋と契約をしたいと思っています。」



普段、温和な彼が


こんなに情熱を持って語るのは


親として見るのも初めてなくらいだった。



「・・真尋を、」


北都はそのDVDを手に取った。



「弟だから・・いや、北都真也の息子であるからではなく! ぼくはクラシックは趣味で聴くくらいで、素人ですけど。 真尋は人の心を掴む何かを持っている。 夕べから何度も何度もこのDVDを見ました。 何度聴いても、もう一度聴きたくなるピアノでした・・・」




北都はまた黙り込んでしまった。



「沢藤絵梨沙に電話で様子を聞きました。 アメリカやウイーンでいくつか彼と契約をしたい、というプロダクションが来ているそうです。 真尋のことですから、逆にウチに来たがらないかもしれません。 だから、早くヤツと契約をしたいんです!」




ゆうこは


隣の書庫のドアを少しだけ開けて、そんな彼の話を聞いてしまった。



真太郎さんの弟さん?


北都社長の、次男。



ゆうこは真尋の存在を知らなかった。




そして、こんなにも


熱い真太郎を見るのも


初めてで。



さっきから


心臓がドキドキと脈打っているのがわかった。




彼が


動き出そうとしている。




ゆうこは


胸の前で拳を握り締めた。



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