第5話 出会い(2)
二人が食事を終えて帰ってくると、真太郎が外出から戻ってきていた。
「あ・・」
ゆうこが南を紹介しようとすると、
「おっかえり! 外出?」
南が真太郎に笑顔で声を掛けた。
すると真太郎も笑顔で
「・・うん。 社長とね、」
と答えた。
二人は知り合いのようだった。
南が2年前、NYに行く前はここにいたのだから
それは当然と言えば当然だが。
南はバッグから1枚のDVDを取り出した。
「コレ。 例のヤツ。 向こうのTVディレクターに頼んで焼いてもらったから。」
「ありがとう、」
真太郎はそれを受け取る。
「こっちではどうかわからへんけど。 ・・ギョーカイではけっこうな評判みたいやで。」
「そっか・・」
真太郎はそのDVDの端をぎゅっと掴んだ。
知り合いというより
かなり
親しい雰囲気だった。
真太郎はまだまだ学生なので
社長の息子と言っても
他の社員には必ず敬語だった。
しかし
南に対しては
全く
違う空気を感じた。
「白川さん。 早速で悪いけど。社長のスケジュール、教えてくれる?」
南はゆうこに言った。
「あ・・ハイ・・」
ちょっと
圧倒された。
ホテルの薄暗い部屋の大きなテレビ画面に
真太郎は釘付けになった。
ソレは
想像していたよりも
遙かに
遙かに
心を揺さぶる『何か』があった。
「・・すっごいやろ、」
南がバスルームから髪を拭きながら出てきて彼の隣に座った。
「あたしも素人やけど。 『このスゴさ』は、わかる。」
そこには
弟・真尋のピアノコンチェルトの様子が映し出されていた。
「この指揮者の人が・・ええっと、ドイツ人のシモン・クルシュって巨匠やって。 真尋の学校の特別講師してたらしいねん。 んで、真尋のピアノに目を留めて。 NYの演奏旅行に連れてってもらえて。 競演するはずやったピアニストにドタキャンされて、真尋が出ることになったらしいねん。 それがもう。 大絶賛で。 あの新人は誰やって、評判になったらしいよ。」
南はざっと概要を説明した。
真太郎は黙ったまま、画面を見つめていた。
「その先に契約した『彼女』の方はどうなってるの?」
南はさらに彼に訊いた。
「来年の春にはこっちでプロモーションの話も出てる。 『彼女』に真尋のピアノの才能について絶賛されて。」
真太郎はようやく口を開く。
「あたしもようわからんけども。 でも・・『普通』やない感じはするね、」
南はそっと真太郎の肩に手をかけたが、彼は
難しい顔をして
何かを
ジッと考え込んでいるようだった。
ベッドの中で
裸のまま抱き合い
南はそっと真太郎の頬にキスをした。
「真太郎が頑張って何かをしようとしてるんやったら・・あたしはどんなことでも協力するから・・」
「南・・」
「もうすぐほんまに・・社会人やもん。 真太郎が悩んで迷って決めた今の道。 あたしは一人になっても応援するから・・」
「ありがと、」
彼女の華奢な身体をぎゅっと抱きしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます