第2話 始まりは(2)
変わらないな・・
ゆうこは
にこやかに話をする真太郎の表情を見て
そんな風に考えてしまった。
ずっと一緒に過ごしていたあの日と。
彼は
ずっと変わらない。
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「あ、白川さん。 おはようございます。」
「おはようございます。 今日は早いですね、」
社長室の掃除のため
ゆうこは他の社員たちよりも1時間は早く出社するのが常だった。
しかし
この朝は真太郎のほうが早かったので少し驚いた。
「昨日で卒論が仕上がりましたから。」
その笑顔に
いつも
胸が勝手に鼓動を始める。
「じゃあ・・一安心ですね、」
「まあ、」
「真太郎さんは本当に仕事と大学を真面目に両立してましたもんね。」
「けっこう卒論に時間がかかってしまって。 最後、焦りました。」
彼は
小学校から大学までのエスカレーター式の学校に通っていたが、
東大への進学を選んだ。
181cmの長身、スタイルもルックスも
まるでモデルばりで。
一見、派手そうなのに
中身は、そこらへんの大学生の何十倍も真面目だった。
東大に進学後から、学業の合間に社長の秘書を務めるようになり、
その2年後入社して、いきなり社長秘書に抜擢されたゆうこと
ずっと一緒に仕事をしてきた。
頭が良くて
優しくて。
社長の息子であるのに
全く驕ったところがなくて。
謙虚で。
将来、ホクトグループを継ぐのに
申し分のない青年であった。
そして
ゆうこは
そんな彼に
いつの間にか
恋心を抱くように
なっていた。
「真太郎さんが卒業されたら。 正式に社長の秘書になられるのでしょう?」
ゆうこはポツリと言った。
「え? そんな話は聞いていませんけど。 というか・・父は白川さんのことがお気に入りだから。 ぼくよりもあなたがついていてくれたほうがいいと思うけど、」
なんて
言われて。
ドキンとした。
「あ・・あたしなんか。 ほんっといまだに仕事が遅くて。 真太郎さんに助けていただいてやっとやれてる感じなのに。 こうやって掃除とか・・お茶を入れたりするくらいで・・」
恥ずかしくなってうつむいた。
「社長は白川さんのこと、ほんっとに信頼してますから。 いつも社長室もキレイにしてくれて。花もこうしてキレイに飾ってくれて。 社長は忙しいですから。 こういう空間が本当にホッとできるんだと思います。 それに・・白川さんは社長が直々に秘書に、と言ってつかれてるんですから。」
それは
今でも不思議なことだった。
入社して間もないころ。
ほんっとに
ドジばかりして、先輩に怒られていたゆうこが
いきなり社長から秘書を任された。
秘書課の課長も大反対したらしいのだが
社長は強引に彼女を指名してきたのだった。
「あの時は正直、ぼくも社長の考えがわかりませんでした。 あまりに荷が重いと思ったし・・白川さん、入社したてで会社のこともわからなかったし。 だけど、今は社長の想いがわかります。」
真太郎は柔らかい笑顔をゆうこに向けた。
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