My sweet home~恋のカタチ。8--evergreen--

森野日菜

第1話 始まりは(1)

ホクトエンターテイメントクラシック事業部が創設されて


12年。



志藤はもう43になる。


31で本部長という管理職となり、夢中で突っ走ってきた。



志藤を筆頭に


北都 南、斯波清四郎、玉田康介、八神慎吾、栗栖萌香、加瀬夏希。



この7人で支えるこの部署は、毎年徐々にではあるが、利益を伸ばし


いまやホクトのエース的存在だった。



志藤は並外れた頭の回転の速さと実行力で、次々に画期的な企画を実現していった。



そして


なによりも


部下の統率力は誰もが認める彼の天性の才能だった。



「あ~~、はやいね。 もうすぐ12年になるんだあ。 事業部ができて。・・志藤ちゃんが来て・・もうちょっとで13年か。」


ある日の残業中、南は伸びをしながら志藤に言った。



「なに、急に。」


志藤はパソコンのキーボードをを叩きながら言った。



「順調、だよね。 ほんま。」



「ま、おれも・・・用なしかなァって。」



「はあ? 何言うてんの。」



「社長から。 そろそろ取締役の仕事、一本に絞れって言われてる。」


タバコをふうっとふかした。



「ほんまに?」


南は驚いて彼を見た。



「斯波も・・まあ、ようやく人付き合いに慣れてきたし。 仕事に関しては正直、おれよりもあいつのがプロやしな。 めっちゃ勉強してるし。 結婚もして、人間的にも普通の38の男としてココ任せられるかなあって・・」



「・・ま。 斯波ちゃんは頑張ってるけどね。 でも・・やっぱり志藤ちゃんがここにいなくなるのは寂しいやん、」


南はしょんぼりとして言った。



しかし


彼はニッコリ笑って、


「別に。 どっこも行くわけやないし。 こっからおれのデスクがなくなるだけやん。 って・・このくだらないもん、これからどこに置いたらええねん。」


志藤は引き出しを開けてその中を見て言った。


その笑顔で


いつもみんなを安心させてくれて。



ほんま。


いろいろあったなァ。



南は頬杖をついてそんな彼の横顔を見た。






南は翌日の日曜は午前中だけ仕事を済ませて帰宅した。



「あれ?」




リビングに志藤の妻・ゆうこが来ていて、真太郎と談笑中だった。



「あ、南さん。 すみません、お留守中に。」


立ち上がってペコリとお辞儀をした。


末っ子の凛太郎だけをつれてやってきていた。



「ああ、ええけど。 凛太郎だけ?」


と、彼を抱き上げた。



「あとはうるさいんで。 置いてきました。 今日は母も来てくれてるし。」



「おっきくなったな~~。 凛太郎も。」



「この間、ひなたのお祝いをいただいたので。 お礼を兼ねて。」



「わざわざ来てくれなくてもいいのに。 ほら、きれいなお花と手作りのケーキも持って来てくれて。」


真太郎はそれらを指差した。




「そうそう。 もう、ひなたも中学生になるねんもんな~~。 早い、早い。」


南は凛太郎を抱っこしながら腰掛けた。



「社長からもお祝いをいただいて。 別に私立の中学に行くわけでもないのに。 申し訳なくて、」



「そんなのどこでも関係ないやん。 中学生になるのは人生でも大事な節目やもん。 あたしたちもずうっとひなたを側で成長を見守ってきたし。 ほんま、嬉しいというか。」



「幸太郎さんは小学校の卒業式も中学の入学式も行くって張り切っちゃって。 仕事は大丈夫なのか心配、」


ゆうこはクスっと笑った。



「そりゃ、志藤ちゃんは『ひなた命』やもん。 でも、次々と卒業、入学がやってきて大変やな、」


南は笑った。



こんな風に


お互いに落ち着いて話ができる日も。



『あの時』は



思いもしなかった。



南は凛太郎の頭を撫でた。



「白川さんはほんと、大変だよね。 偉いよ、」


真太郎は紅茶を飲みながら言った。



「そんな、」


ゆうこは照れて笑った。




真太郎は


いまだにゆうこのことを


彼女の旧姓で呼ぶ。




それは


あたしも知らない


二人だけの


『時間』


があるから。




南はぼんやりとそう思った。





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