第6話いっぺんの桜はお約束

 君の嘘、一片の約束

 桜花はぼくの恋心


 君はぼくの約束

 一片の恋心、桜花の嘘



 ひとひらの約束を彼女と交わした。来年もお花見の季節にお話ししましょうと。それは叶わなかった。彼女は魔女でも人魚でもなく、あくまでも一人の素敵な女性だった。

 ぼくらは最期にとあるカップルの話をした。

 約束に遅れた彼氏と怒る彼女、デートの定番。だけど彼は30分前に来て、さすがに早いと思ったのかどこかへ。彼女も彼女で15分くらい前からそわそわ待って。ほんの少しのすれ違い。



 ながいときのなかで今日なんて一瞬。まして誰かと過ごすひとときなんて一瞬のひとひら。咲いて散ってもまた咲いて。この地域は特に桜を見ながら盛り上がるでしょ、見てないひとも多いけどね。


「結婚など考えた方はいらっしゃらなかったんですか?」


 愛してたけど、恋じゃなかったんでしょうね。昔はいたけど、今はひとり。それでよかったの、だって好きなことできるでしょ。人魚のままだったらこんなこと考えもしなかった。


「さびしくないですか」


 私の恋人はあの頃から今もずっと桜なのよ。さびしくないわ。


「嘘だ」



 ぼくのつぶやきに彼女は笑うだけだった。



 風が強く吹けばあっという間に桜が散っていく。どうしてああも花が咲いている時間は短いんだろう。ながいときのなかでほんの一瞬彼女とした話を忘れたくなくて、ぼくはこれを残す。彼女の姿を描いた絵をどこかで見かけた。彼女だと分かる人は多いだろうか少ないだろうか。


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桜花は一片の約束 新吉 @bottiti

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