第5話いっぱいの桜は花束に

 微笑みを数える色

 その涙さえ命の日


 数える命の涙さえ

 その日微笑みの色



 ここはちょっと有名なお花見会場だ。桜がだいぶ散ったので人がまばら。僕の目的は遅くなったお花見ではなくとある女性に会うことだ。



「今日は作家以外のお仕事の話を聞けたらと思いまして」


 そうね



 彼女はペンを置き、考える。



 通販商品の梱包、包装、ラベル貼り、モデル


「いろんなお仕事されてたんですね」


 お礼状書き、読書家、ファンタジー作品の審査員、お酒作ってお話聞いて


「…」


 大丈夫、筆談の私に大変だねって優しい人ばっかりだった。正直モデルが辛くて。人魚じゃないから老けるでしょ、人って怖い、だから無視して楽しいことを数えた。そしたら微笑みが桜色だって気づいたのよ。悪魔の微笑みはどうかしら?青い小人さん達には会ったことあるのよ。彼のはブルーね。



 数十年前ここのような海に近いお花見会場に、突然絶世の美女が現れた、しかも全裸で。警察は事件も含め捜査したが記憶喪失と失行があり、彼女は物の使い方も分からなかった。保護されるはずだったがとある事務所が彼女を引き取った。そして一躍時の人となった現代の人魚姫は、そのうち時間とともに忘れられた。



「あなたは人になりたかった?」


 いいえ、ならなければよかったと何度も、


「今も?」


 今は好きなものに囲まれて、しあわせよ



 涙がひとすじこぼれる。私の涙は不老長寿なんてかなわない。ちゃんと実験施設に依頼したのと、彼女は桜色に微笑んだ。

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