第2話約束はいっぱいの桜花

 字句の海が咲く

 夏思いが沈む


 夏の海が咲く

 字句の思いが沈む



 ここはちょっと有名なお花見会場だ。まだ五分咲きだから人がまばら。僕の目的はお花見ではなくとある女性に会うことだ。



「どうしてここがいいんですか?」


 桜が好きだからよ。もっと咲いて混んできたら場所を変えましょう。


「わかりました。本当に桜がお好きなんですね。あなたの本にも桜のシーンがありますよね」



 嬉しそうに頷いたあと、しばらく動きを止める。



 それより、このやり方で大丈夫かしら?メールでもよかった気がするけど。



 そう困ったように微笑む彼女の疑問はわかる。僕が質問をして、彼女は手帳に書いて筆談をしている。一昔前人魚ではないかと世間を騒がせた彼女、今では覚えている人の方が少ない。



「やりにくいですか?直接あなたと会わないといけない気がして。ゆっくりお話しもしたくて、すいません。僕口下手でこの仕事向いてないんです」


 いいえ、あなたみたいな方でよかった。しばらくよろしくお願いします。



 僕は結局質問した。きっと今まで何度も聞かれているだろう。



「あなたは人魚なんですか?」


 私が人魚に見えるのならね、こんな白髪の人魚なんているのかしら。


「僕にはおばあちゃんに見えます。でもあなた自身のお話が知りたいんです」


 魔女かもしれない、嘘つきかもしれない。


「それはそれで面白そう」



 そして僕は彼女の丁寧な字の海へ。

 はじめは夏の海は日焼けするから深いところを泳いでるって話からだった。

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