05.18 「会いに行こっ、お母さんに」

 あれ? とおる

 窓から見えたのは確かにとおるだ。こんなに早く……、姫花ひめかのお世話でもするのかな?

 と思ったら、走って戻って行っちゃった。忘れ物?


 「おはよう、とおる

 「おはよう、凜愛姫りあら


 何か疲れてるな……。目の下にも隈が出来ちゃってる。


 「眠れなかった……、かな?」

 「えっ、うん。なんかね」


 そっか。そうだよね。不安そうにしてたもんね。


 「もう、燃費悪いなぁ、とおるは。充電、しよっか」


 本当はちゃんとして欲しいけど、これで元気になってくれるなら、まあ、仕方ないか。それだけ必要とされてるって事だし? 思われてるって事だよね。

 手を繋いで一緒に登校して、帰りは家まで送ってくれる。登校してる時は少しはましなんだけど、帰りになると不安そうな顔してるな。


 「今日、泊まりに行こうか?」

 「大丈夫、だから」


 そうは見えないんだけど。


 「でも、眠れないんじゃ」

 「学校で少し寝たから平気」


 確かに寝てたけど……。最前列なのに。


 「また明日迎えに来るから」

 「えっ、うん」


    ◇◇◇


 翌朝。

 隈が酷くなってる。


 「とおる……」

 「充電、して……」


 昨日みたいに充電したんだけど、あまり回復したようには見えない。授業中もぼーっとしてるし、体育の授業中に倒れて保健室に運ばれちゃうし。


 「今日は――」

 「大丈夫。いいもの貰ったから」

 「えっ?」

 「また明日迎えに来るね」

 「うん」


 いいものって……


    ◇◇◇


 翌朝。


 「おはよう、とおる

 「……」

 「とおる?」

 「あぁ、おはよう凜愛姫りあら


 隈は少しましになってるけど、眠そうで……


 「って、立ったまま寝ないでよっ」


 電車で膝がカックンってなってるおじさんみたいだよ。


 「うーん、薬が効きすぎちゃったみたいでさ。眠くてたまらないんだ」

 「薬?」

 「保健の先生がくれたんだ。本当は処方箋がないと出せない代物なんだぞーって」

 「そんな、薬に頼ってたら……」

 「でも、嫌なことぜーんぶ忘れられて、よく眠れるんだよ、これ。ベッドに入った瞬間に意識が無くなっちゃうんだ」


 そんなの……


 「そんなの、良くないよ」

 「でも――」

 「ちゃんと向き合わないと」

 「向き合う?」

 「うん。ちゃんと向き合って不安の原因を解決しないと」

 「……」


 このままじゃダメだよ。


 「ねえ、会いに行こっ、お母さんに」

 「でも……」

 「今しかないんだよ。会えなくなってから後悔してもどうにも出来ないんだよ?」

 「……」

 「透華とうかちゃんとも仲直りしよっ」

 「別に喧嘩してるわけじゃ……」

 「一緒に行ってあげる。私も一緒に行ってあげるから」


 大丈夫。産んでくれたんだから。一緒に居られない理由があっただけなんだから。透華とうかちゃんだってとおるの事大好きなんだと思う。

 だから――


 「ねっ」

 「凜愛姫りあら……」


 そんな顔してもダメなんだから。無理にでも連れて行くから。


 そして、都合の良い事に、今朝はあの娘が校門前で待っていた。とおるに冷たくされた所為か、ここ数日は姿を見せてなかったんだけど、今朝は居てくれた。とおるも薬の所為でぼーっとしてるから、今なら丁度いいかも。


 「透華とうかちゃんっ!」

 「凜愛姫りあらさん……、お姉様……」

 「ほら、とおる

 「……」

 「とおるっ」

 「うわあ。……えっと」


 ごめんねって言うだけだよ。頑張って。


 「ごめんね、透華とうかちゃん。この前はどうかしてたみたい。だから、その……」

 「お姉様……」


 うん、やっぱりそうだ。嬉しそうにとおるに抱きついちゃって。……ちょっと妬けるけど、まあ二人は姉妹なんだし。

 仲直り出来たら次はお母さんに会いたいって言うんだよ。

 ……言うんだよね?


 「とおる、ほら」

 「……」


 私と目を合わそうとしないっ! もう。だったらいいわ。


 「ねえ、透華とうかちゃん。とおるがお母さんに会ってみたいって言うんだけど」

 「母に? お姉様が?」

 「そうよね、とおる

 「う、うん。凜愛姫りあらも一緒だよね」

 「お姉様っ!」

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