05.13 「女子が圧倒的に減ったよな」

 今更なんだけど、新年度が始まるとクラスの男女比が大きく変わっていた。

 とはいっても、試験による生徒の入れ替えがあったとかじゃなくて、私と同じように治療によって元に戻った生徒が現れた事によるものだった。女子の40%が男子へと、男子の15%が女子へと変化したことにより、このクラスの女子比率がだいぶ下がってしまっている。元々、感染率が50%だったことを考えると、公表されている治験データは正しいということになるのかな。

 しかも、変化はこのクラスに限った事じゃなくて、新2年生の他のクラスでも同じような事が起きていた。つまり、この学校、ううん、首都圏じゅうの新2年生は圧倒的に男子が多い状況になっていたのだった。

 その所為で別れてしまうカップルもそこそこいたり、同性同士でそのまま付き合ってるカップルもいたり、そもそも、それ以前の問題で――


 「えっと……、姫神ひめがみ……さん?」

 「そうよ。姫神ひめがみ 凜愛姫りあら。改めて宜しくね」


――みたいな感じに改めて自己紹介し合ったりと、そこそこ混乱も生じていた。元に戻った人たちは、名前も元に戻してる人が多いしね。

 私の場合はとおると一緒に居るからなのか、何となく気付いてくれてるみたいなんだけど、代わりに女の子が好きだったんだー、なんて思われてるみたい。だって、男子は感染者の80%が元に戻ってるのに、とおるは女の子のままなんだもん。可愛いし、まさか男子だなんて思われてないみたい。


 「あの……、姫神ひめがみさん。放課後2体裏に来てくれないかな」


 まあ、それでも中には私に告白しようとする男子もいるにはいるんだけど、態々2体裏に行くのも面倒くさいからその場で断ることにしてる。だって、そんな事に時間を取られるぐらいなら、少しでもとおると一緒に居たいもん。


 「ごめんね。私、とおると付き合ってるから」

 「そう、なんだ……。やっぱり、ゆ……」


 百合って言いたいのかな?

 まあ何と言われようととおるとの関係は変わらないけどね。っていうか、とおると付き合ってるのってみんな知ってるよね?


 でも、これはこれで、ちょっとは嬉しいこともあって――


 「そういうことだから、僕の凜愛姫りあらにちょっかい出さないでもらえるかな」


――だって。私に声を掛けてきた男子を睨みつけているんだけど、そんな顔もとってもかわいいから、ぜんぜん迫力ないかな。


 「ご、ごめん、姫神ひめがみさん。まだ付き合ってたんだね」

 「当たり前だよ。凜愛姫りあらと別れるわけないだろっ!」


 私が誰かに声を掛けられる度にイライラしてるみたい。嫉妬してるのかな? とおるったら。僕の凜愛姫りあらだなんて、ちょっと照れくさいな。

 そう、とおるとは私が元に戻ってからも以前と同じ関係を維持できているんだ。


 「なあ姫ちゃん、女子が圧倒的に減ったよな」

 「まあ、80%が元に戻ったんだからね。間違って男と付き合うことにならなくてラッキーって思えばいいんじゃない? あっ、そもそも誰とも付き合ってなかったっけ、得利稼えりかは」

 「裕人ゆうとだ。俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだなぁ、この状況下で女の子同士で付き合ってるってのはどうなのよっ、って事なんだけど?」

 「どうなのよって言われてもさぁ」


 うん、どうなのよって言われてもとおるは男の子なんだもん。それに、私達だけじゃないもん、女の子同士って。


 「正直言って、勿体ねえんだよ、二人とも。知らずに付き合い始めたのかもしれねえけどさぁ、何で女神二人が潰しあってんだよ。状況が変わったんだから関係を解消してどっちか俺と付き合ってくれてもいいんじゃねえか? なあ、どうなんだ?」

 「死んでも無いな、それだけは」

 「私も……、ないかな」

 「ああ、そうですか。じゃあ、せめてそこの愛人たちを開放してくれねえか。なんで女子にもててんだよ、姫ちゃん」


 大金おおがねさんが指差してるのは最初からとおるが男の子だって知ってた水無みなさん、男の子だと思ってたら男装してただけだった武神たけがみさん。それに、休み時間の度に態々やってくる1年生の蔦原つたはらさんだ。

 それに関しては大金おおがねさんを応援したい。頑張れっ! 一人でもいいからとおるから遠ざけて!


 「愛人にしたつもりなんかないんだけど?」


 なんてとおるは言ってるんだけど、当の本人たちは――


 「馬鹿なのですか? 変態なのですか? 先輩は私とお付き合いしてるのですよ。キモいのですよ。いっそ、死んじゃったほうがいいんじゃないのですか?」

 「キモいって……」

 「済まないが、やはり普通の男性には興味がもてない。決して君が好みではないとかそういう訳で……、はないのだが」

 「そうですね、例えとおるさんにふられたとしても得利稼えりかさんとお付き合いするわけがないじゃない。例え、ね」

 「裕人ゆうとだっつーの」

 「私は……、その……」

 「いや、おめーには訊いてねえから」


――と、身を引く気は全く無さそうだ。最後のは中学のころからとおるの事を好きだったとどろきさん。大金おおがねさんは女の子だったって事知らないみたいなんだけど。


 「つつっ」


 そんな彼女たちを牽制しておこうと思ったんだけど、急にお腹が痛みだした。


 「どうしたの? 凜愛姫りあら。大丈夫?」

 「うん、平気」


 じゃないかも……

 最近頻繁に痛むようになってきちゃったんだけど、今のはちょっときつかったな……


 「保健室行く?」

 「平気だってば。とおる、保健の先生苦手でしょ?」


 いきなり脱がされたって言ってたっけ、高天原たかまがはら祭の時。


 「そうだけど……」


 痛みの原因は判ってる。こうなる可能性も示唆されてたし。

 でも、とおるには知られたくないな。周りにはとおるの事が好きな女の子が何人もいるんだもん。もし知られてしまったら……

 いずれちゃんと伝えなきゃいけないんだけど、まだ諦めてないもん。だから――


 「私は大丈夫だから」


 うん。大丈夫。その時は耐えられないぐらいの激痛だって言ってた。まだ耐えられる。だから大丈夫。

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