05.12 「触れば解るから……」

 「とおるさん、放課後少しいいかな」

 「別に構わないよ?」

 「じゃあ、体育館裏で待ってるから」


 あれ、デジャブか? 自信無いけど前にもこんな事あった気がしてきた。


 「そうだった、体育館は4つあるから、第2体育館裏でいいかな」

 「うん、いいけど」


    ◇◇◇


 そして、放課後。

 授業が終わって直ぐに準備したつもりなのに、武神たけがみさんの姿は既になかった。言われた通り第2体育館裏に行ってみると、武神たけがみさんが待っていた。呼び出したんだから当たり前か。

 思い出した。確か1年前にもここに呼び出されて、武神たけがみが勝手に意識失っちゃったんだった。また倒れたりしないよね……


 「ありがとう、とおるさん」

 「え、まあ、お礼を言われるほどのことでも無いけど」

 「今日は君に言わなければならないことがあるんだ。ずっと隠してきたんだけど、君を慕う新入生に中学時代の噂の彼女……」

 「いや、あれは噂だけで会ったことも無かったわけだから……」

 「それに、水無みなの告白……」


 う〜ん、モテ期到来、みたいな?


 「ぼくは今まで男性に興味を持ったことは無かった。産まれてから一度もね。そして、この先も興味を持つことは無いと思っていた」


 まあ、今は男なんだし、その姿のままって事は治療の効果が無かったのか、そもそも治療を受けなかったって事なんだろうし、良いんじゃないかな、それで。


 「何で態々そんな事を僕に?」

 「とおるさんが男性だったと聞いて、衝撃を受けたよ。ぼくの恋は終わったと思ったんだ」


 うん。そうしてもらえると僕としても大変助かるんだけど。記憶を無くしてる間はちょっかい出しちゃったみたいだけど、出来ればそれも忘れてもらえると……


 「でも違ったみたいだ」

 「ん?」

 「とおるさんの事が気になってどうしようもないんだ。以前同様、いや、以前よりも益々君のことが――」

 「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って。男に興味無いんだよね? 僕は男だし、僕だって男には興味は無いよ? それに、ちゃんと元に戻りたいと思ってるんだから」


 いや、凜愛姫りあらは別だよ。元々女の子だって解ってたんだしさ。その意味だと、武神たけがみさんも元々女の子か……。

 兎に角、凜愛姫りあらは特別だよ、凜愛姫りあらは。


 「そのことなら心配は要らない。こんな事するのは恥ずかしいんだが……、手を、いいかな」

 「何をっ、ちょっと……」


 手首を捕まれ、そのまま体を触らせようとする武神たけがみさん。流石と言うか何と言うか、全く抵抗できない。抵抗したら折れちゃうかも?


 「やだって、そんなとこ触りたくないし」

 「触れば解るから……」


 何もわからないって。そういう人たちの気持ちとかそういうの。僕は女の子が好きなんだから。


 「やめてえええーーーー、ええ?」


 無い……、ついてない……。スッキリしてる……。あるべきが無い……。

 嘘っ?


 「そ、そんなに撫で回されると……」

 「はっ、ごめん。でも、これって」


 つまり、武神たけがみさんは女の子って事だ。


 「さっきも言った通り、女の子にしか興味が持てなくてね。この体にも違和感しか無くて、格好だけでも男にと。だから、とおるさんが気にしている男同士ってのは無用な心配なんだ」

 「奇病は? 感染してないの?」

 「ああ」

 「そう……なんだ……。でも、僕には凜愛姫りあらが――」

 「それも承知の上だ。ただ、皆が君に思いを伝える中、僕だけ黙っているなんて出来なかった。でも、安心して欲しい、どうこうしたいという訳じゃないんだ。只気持ちを伝えたかっただけで……」

 「僕にどうしろと?」

 「今まで通り友人として接してくれれば」

 「……そう。わかった」


    ◇◇◇


 「どうしたの? とおる、すごーく疲れてるみたいだけど」

 「え、うん……」


 教室に戻ると、凜愛姫りあらが待っていてくれた。クラスメイトの大半が既に下校し、教室に残っていたのは凜愛姫りあら水無みなだけ。水無みな武神たけがみさんを待っていたんだろう。


 「それについては、ぼくから話そうか」

 「第2体育館裏に行ってたみたいだから、何となく想像はつくんだけど……、とおるが男の子だったってのは知ってるよね、武神たけがみさん」

 「ああ、勿論さ。ショックは受けたけどね」

 「じゃあ、とおるが元に戻りたがってるって事は?」

 「それもさっき聞いたよ。男性には興味無いって事もね」

 「だったら……」

 「水無みなは元々知ってるし、とおるさんにはさっき話したから、凜愛姫りあらさんにも話しておくべきだね。実はぼく、女なんだ」

 「名前からは想像着いてたけど……、治療効果無かったの? それとも……」

 「とおるさんと同じことを聞くんだね。ぼくは感染してないよ。これは只の男装。何なら凜愛姫りあらさんも触ってみるかい?」

 「もっ? 触ってみる?」


 えっ……


 「ああ。とおるさんには直接触って確認してもらったんだ。ぼくが女だって事を」

 「直接って……」

 「服の上からだよ、上から。直接なんて触ってないからっ」

 「触ったんだ……」

 「いや、触らされたというか……、関節固められて抵抗出来なかったんだもん!」

 「触ったんだ……」

 「……はい」


 そんな般若みたいな顔されてもさ……、どうにも出来なかったんだよ? 嘘じゃないよ?


 ちなみに、校則で制服は指定されてるけど、2種類指定されているだけで男女それぞれに指定があるわけではなかったみたい。そこまで決めなくても解るだろってことなのかもしれないけど、女子がスカート穿かなくても問題ないみたいなんだ。僕もこんな格好する必要なかったってことだけど、今更かな。もう慣れたし。

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