04.16 「これって、本命?」
「では、次の議題に移りましょうか」
会長が仕切るこの会議、勿論、評議委員会なんだけど、その議題というのがとんでもない。
「毎年、この時期になるとアルバイトに現を抜かし、学業を疎かにする女子生徒が多々見受けられるのは知っているかしら。これはバレンタインデー、正確には義理チョコを渡すという愚かな風習によるところが大きいわね。故に、この状況を打破すべく、義理チョコ禁止令を発令したいと思うのだけれど」
評議委員の男子たちが落胆のうめき声を上げている。
「ついでだから、同性間でチョコを渡すのも禁止にしようと思うの。反対意見が在るようなら聞いてあげようかしら」
一部の女子からも悲鳴にも似た声が上がるも、反対意見は出されなかった。
事件前の記憶は無いんだけど、そもそも会長が持ち込んだ議案に反対意見を言った人なんて見たこと無い。
「では、全会一致で義理チョコ禁止令を発令するということで良いわね。今日の議案はこれで全てだけれど、風紀委員には別途依頼事項が在るので残ってもらえるかしら」
予想はしてたけど、私と
「それで、依頼事項というのは何ですか、会長?」
「多分、セキュリティシステムで義理チョコ渡してる現場を押さえろって事じゃないかなあ」
「流石
「でも、そんなこと出来るの?
「どうかなあ。チョコを剥き出しであげる人は居ないだろうから、渡してるのがチョコかどうか認識出来ないかもね。ただ、渡してるって行為は認識出来るだろうから、14日に限定して、複数人に渡してるって条件にすれば何とかなるかな」
「その条件でよさそうね。個人の特定は今も出来てるから同性間ってのも問題無いわよね。それで、どれくらいでできるのかしら?」
「学習自体はテスラちゃんが居るからそんなに大変じゃないんだけど、学習データを用意するのがねー」
「具体的にはどんなデータを用意すればいいのかしら?」
「義理チョコ渡してる映像かな。あとは、念の為に本命チョコの方も」
「なら解決ね。私もデータ集めには強力するわ。言い出しっぺですもの」
◇◇◇
翌日の放課後、私と
目的は学習用のデータ収集。昨年2月14日の午前7時から午後7時までの学校敷地内の監視カメラ映像からチョコを渡す瞬間を抜き出していく辛い作業を強いられているのだった。
学習用データを要求した私に対し、会長から提示された解決方法がこれだったのよね。
「まさか去年の映像が丸ごと残ってるとは……」
「あら、必要なら一昨年の映像も確認出来るのだけれど、知らなかったのかしら?」
しかし、映像を確認すればするほど、義理チョコを渡している件数よりも、会長にチョコを渡す女の子の数の方が断然多い。
「会長、もしかしてだけど……」
「気の所為よ、
うん、間違いない。義理チョコ禁止とか言いながら、本当の目的はこっち、つまり同性間、と言うより、女の子から会長へ渡すのを禁止したいんだ。あんなに貰ったら返すのも大変そうだもんね。
◇◇◇
そして、バレンタインデー当日。
学習も上手く行き、ディープラーニングによるプレゼント検出システムの準備は万端。だったんだけど、複数人に渡している人は現れず、もちろん、会長にプレゼントする女子も現れなかった。
まあ、そうだよね。会長が言い出したって事は知れ渡ってるし、それを無視して会長に嫌われるリスクを負うのは嫌だよね。
そうそう、
「くっそー、会長め、俺に何の恨みがあんだよっ」
って叫んでたけど、義理チョコ禁止令は関係ないんじゃないかな。
「ねえ
「ん? 何? ……チョコ?」
そんな
「ちょっと作りすぎちゃったんだけどね」
「これって、本命?」
「ええっ?」
「だって義理チョコ禁止令が……」
「それは学校での話で……」
そうだよね。ちょっとがっかりだけど、こんな大量に、ね。義理チョコ作ったけど渡せなくなっちゃったとか?
そもそも、男の子から女の子にってのもおかしいか。
「そうだね。ありがと、
「バカ……」
「馬鹿?」
「何でもないっ」
「ねえ、今、馬鹿って言ったよね」
「言ってないっ」
「いや、言ったって。馬鹿ってどういうことなのよ」
「知らないよ」
もう、何なのよ、
あっ、私があげなかったから拗ねてるのかな?
風紀委員長として義理チョコ禁止令を破るわけにはいかないじゃない?
もしかしって本命チョコ欲しかったの?
そうかぁ、考えてなかったな。でも今から用意したんじゃね……
◇◇◇
「
「どうぞって、何、その格好っ」
「いや、義理チョコに意識がいってて用意してなかったからさあ、お姉ちゃんをあげちゃおっかなー、なんて?」
「い、いらないから、帰ってよ」
「でも……、結構恥ずかしいんだよ、これ」
他にあげられるものもなかったから、今の私はほぼ全裸。辛うじてリボンで隠してる程度という破廉恥な姿なの。
両親に見られでもしたら何を言われるか知れたものではない。
だから、早く部屋に入れてほしいんだけど。
「恥ずかしいならそんな事しなきゃいいのに」
うん。それはやってみてものすごーく反省してる。
「取り敢えず、入るね。ここで騒いでたら父さん達来ちゃうから」
反省してるけど、もう此処まで来たら……
「好きにしていいよ、
「……」
「えーっと、
「……そういうのは記憶が戻ってからって」
バタンッ
「えっ? ちょっと、
毛布を掛けられ、部屋から締め出されてしまった。
「どうかしたの?
「え、いや、何でもない」
もう、何なのよ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます