03.09 「ボディー……ガード」

 中間試験も終わったし、ちょっと早いけど誕生日プレゼントでも買いに行こうかなー。でも、最近ずっとウザ男に付き纏われててちょっと怖いんだよね。


 「とおるさん、今度の日曜なんだけど、よかったらぼくと一緒に……」


 凜愛姫りあらに付いて来てもらうわけにもいかないし、困ったな。


 「あの、とおるさん?」


 ん? 武神たけがみさん。そういえば、実家は何かの道場やってるって言ってたっけ。もしかして、武神たけがみさんも強かったりする? あの時も『実力行使に移らせててもらう』とか言ってたし。


 「ねえ、武神たけがみさん、週末空いてる?」

 「え、ああ、空いてるけど……」

 「じゃあさ、ちょっと付き合って欲しい所があるんだけど、いいかなあ」

 「それは、構わないけれど……」

 「やったあ。最近ウザ男が出没するから困ってたんだ。よろしくねっ、武神たけがみさん」

 「あ、うん」

 「ん? どうかした?」

 「いや、別に」


 よし、これで安心だ。


 「ぼくも観たい映画があったんだけど、付き合ってもらってもいいかな」

 「映画?」


 映画館は……みなとみらいにあったよね。


 「いや、興味がないならいいんだ」

 「そんなことないけど、もうチケット買っちゃってたり?」

 「いや、とおるさんの希望を聞いてからと」

 「じゃあ、みなとみらいに行こうか。僕が行きたいのは元町だしね」


 僕の都合に付き合わせるだけじゃ悪いしね、映画ぐらいならいいか。


    ◇◇◇


 そして、その日曜日。

 僕と武神たけがみさんは朝の8時にワールドポーターズにある映画館に居たのだ。何故か8時半上映のチケットを取ってしまった武神たけがみさんの所為なんだけど。ちょっと張り切りすぎなんじゃないかな。


 「済まない。早すぎたかな」

 「お店、閉まってるね」


 映画館以外は10時半開店じゃなかったっけ……

 まあ、ここには特に用もないし、映画が終わる頃には開いてるんだろうけど。


 「それで、何観るの?」

 「あ、ああ、これなんだけど」

 「へえー、こういうの好きなんだ、武神たけがみさん」


 確か、ラノベが原作でアニメ化もされてたラブコメの実写版だよね。


 「どう、かな」


 実写になるとキャラが違うと言うか、そもそも声が違う時点で違和感があるからな。でもヒロイン役の女優さんも可愛いし、武神たけがみさんが観たいなら――


 「いいんじゃないかな」


 映画の後は、中華街で饅頭を買って、歩きながら食べる。日曜は結構混んでるし、ランチもやってないからなって父さんが言ってたからなんだけどね。

 父さんは中華街で働いてたことがあるのだ。といっても、料理人ってわけじゃなくて、普通のITエンジニア。たまたまオフィスが中華街に有っただけなんだけど。

 実際、父さんに言われた通りそこそこ混んでたし、あまり武神たけがみさんに付き合わせても悪いしね。


 そして、いよいよ元町、というかジュエリーショップへ。まだ売れていませんように……


 「いらっしゃいませ……、あら、いつぞやの可愛らしいお嬢さん。今日は別の方とデートですか?」

 「違いますって。最近変な男に付き纏われてて、まあ、ボディーガードってところかな」

 「ボディー……ガード」


 えっと、伝えてなかったけど、今日はそういうつもりで……


 「まあ、大変ですね」

 「それより、この前見せてもらったネックレスってまだありますか?」

 「えーっと、どれでしたでしょうか?」

 「ブルーダイヤのネックレス!」


 大切な人の幸せを願うって思いが込められたネックレスなんだ。説明してもらった時、凜愛姫りあらにプレゼントしたいって思ったんだ。


 「ございますよ? 残り2本。どちらもお買上げですか?」

 「いえ、1つでいいですけど」

 「畏まりました。今お持ちしますね」


 良かったー、まだ残ってた。


 「ネックレスか、気に入ってるなら今日のお礼に僕からプレゼントという――」

 「ううん、僕用じゃなくて、凜愛姫りあらにプレ……」


 うかれてつい凜愛姫りあらの名前を……


 「リアラ? そういえば、幼馴染が居るといっていたね」

 「う、うん、そうだよ、幼馴染。女の子だよ? 名前で判ると思うけど」


 そうだった。そういう事にしてたんだった。


 「大切なお友達なんだね。ブルーダイヤモンドには幸運を願うという意味が込められてるみたいだから」

 「他にも、夫婦の絆を深める、とか、永遠に変わらない愛を約束するって意味もあるんですよ?」

 「ふ、夫婦……」

 「永遠の……」

 「まあ、女の子同士には関係無いでしょうけど……、どうかされましたか? 宜しければ他のをご覧になって――」

 「いえ、これ下さい。これが気にいってるので」


 落ち着け、僕。夫婦とか、永遠とか、関係ない。うん。そういうのもあるってだけで、僕と凜愛姫りあらはそんなんじゃ……、そんなんじゃ……

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