03.03 「僕がそんなことするとでも思ったの?」

 「とおる、貴女、何を……」

 「伊織いおりっ、それに水無みな武神たけがみさんまで」

 「伊織いおりさんが心配そうにしていたものですから。でもまさかとは思いましたがこの状況はいかがなものかと」

 「いかがなものかって、ちゃんと条件決めとかないとこの後の事が不安じゃない。それに――」

 「この後って……そんなことしたら退学じゃ済まないでしょっ」


 なんか凜愛姫りあらが怒ってるみたいなんだけど、そんな規則あったっけ。


 「校則は確認したつもりなんだけどなぁ。バイトは禁止されてないんじゃなかったっけ?」

 「流石に校則とかいうレベルでは無いと思うよ、とおるさん」


 校則じゃないなら何? 他に何かあったっけ? 個人で受けたらバイトって呼べないの?


 「とりあえず、一旦ここを出よう。そういうわけですので、失礼いたします」


 腕を引っ張って無理やり連れ出そうとする武神たけがみさんと凜愛姫りあら


 「ちょっと待ってって。それじゃ仕事にならないじゃん」

 「こんな仕事、認められるわけないでしょっ」


 そんな怖い顔しなくても……。もう、何が何だかわからないよ。


 「君たち、ちょっといいかな」


 特に慌てるわけでもなく、僕のクライアントが二人を呼び止めた。

 それに反応して般若のように睨み返す凜愛姫りあら


 「何か誤解しているみたいなんだけどね。私は彼女にプログラムの開発を依頼してるだけなんだよ」

 「「プログラム?」」

 「そう。もっとわかりやすく言えば、スマホアプリの開発だね」

 「パパ活じゃなくてアプリの開発?」

 「あははは、まあ、そんな風に見えてしまったなら申し訳ない」

 「なんだ……」

 「なんだ、じゃないよ、伊織いおり。僕がそんなことするとでも思ったの? しかもこんなオジサンとっ!」

 「おいおい、手厳しいな。おじさんにだって傷つくハートぐらいあるんだよ?」


 ちょっと煩い。ちゃちゃ入れないでほしいよ、オジサン。


 「あら、どうかしら。カモフラージュかも知れませんわよ? 打ち合わせと見せかけて実は、ってね」

 「そうなの? とおる

 「そんなことないって」

 「じゃあ、証拠はあるのかしら?」


 もうー、水無みなも余計なことを。その顔は解ってて言ってるんじゃないの?


 「おまたせしましたー。あら? 今日はずいぶんと賑やかね。とおるちゃんのお友達?」

 「はぁ、やっと来た。遅いから大変なことになってたんですからぁ」

 「うーん、なるほど、そういうことか。心配しなくても援交なんてしてないわよ、とおるちゃん。今はパパ活って言うんだったかしら?」


 いつもこのオジサンと一緒に打ち合わせにやってくる井川さんだ。こんな日に限って来るの遅いんだから。でも、一瞬で状況を把握してパパ活を否定してくれたから、まあ許してあげよう。


 「で、どっちがとおるちゃんの彼氏さん?」


 何でそうなるの。もう余計なことを……

 って、何で硬直してるの? 二人共……

 凜愛姫りあら? 武神たけがみさん? さっさと否定しようよ、ね?


 「もしかして、二人共なの? 凄いわね、とおるちゃん」

 「違いますって。友達ですからっ」

 「あらあら」


 もう、2人も何か言おうよ。


 「部長、もう注文しちゃいました?」

 「いや、君が来るのを待っていたからね」

 「じゃあ、お友達も一緒にいいかしら? 経費で落ちないなら部長のおごりって事で」

 「ああ、いいとも。心配しなくても君が大食いだったってことにしておくよ」


 はぁ、何とか治まった。


 「ごめん、とおる

 「ぼくも謝らせてもらう。済まなかったね」

 「ふふ。仕方ないですわね、二人共」

 「って事はやっぱり解っててやってたんだね、水無みなは」

 「だって、2人の反応が面白いんですもの。……ただ」


 不敵な笑みを浮かべる水無みな。嫌な予感しかしない。


 「彼女もカモフラージュという可能性も否定出来ませんわね? この後3人で……」

 「もう、いい加減にしてよね、水無みな

 「まあ、とおるちゃんとはありだけど、正直言って部長とは無いわね」

 「えっと、僕とは……」


 男に戻ったらってことでもいいのかな……


 「とおる?」

 「えっ、いや、何でも無いよ?」


 やっぱり僕の心が読めるの?


 「冗談よ。まあ、とおるちゃんが男の子だったら無くもないんだけど。さあ、皆んな座って座って。部長のおごりだから好きなもの頼んでいいわよ」

 「私じゃなくて会社の経費ね」


 食事をしながらも、三人の事をあれこれ聞き出そうとする井川さん。


 「とおるちゃんのお友達って事は、プログラミング得意だったりする?」

 「いえ、私はそういうの興味ないので」

 「ぼくもどちらかと言うと苦手です」

 「私もですわ」

 「それは残念ね。今ちょっと人手が足りなくてね。そうだ、データ入力とか、ドキュメント作成の仕事もあるけど、興味ない?」


 プログラミングしか見てなかったけど、そういう仕事もあるんだ。凜愛姫りあら、どうかな。そしたら打ち合わせの時も一緒に居られるよ?

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