第二章 グラウンドデッド

第19話 北へ

デュトブロスを北に抜けた俺達は、龍脈山を迂回して北東へと向かう。

次の目的地は半月程北東へと向かった先にある、死地と呼ばれる北の大地の終着点、グラウンドデッド。


終始地面から有毒ガスが放出され、ほとんどの生き物はゆっくりと死に至る。そのせいでほとんど緑は無く地面が剥き出しになっているらしい。そんな場所にもモンスターや一部の植物は生息しており何も無いという事は無いらしい。

ただ、そんな場所に好き好んで行くのは死にたがりか変人くらいのもので、次に会いに行く赤黒い髪の女性はその後者らしい。

昔出会った時からかなりの変わり者で、その時からグラウンドデッドに住む唯一の人物との事だ。


「なーんでそんなヤバそうな場所に一人で?」


グラウンドデッドへと向かう旅の途中、デュトブロスを出て三日目の夜に皆で火を囲みながらその女性、ナーラントル-ヒグモントについて話をしていた。


「その見た目。アライルテム族の生き残り。」


「アライルテム族?」


「よく知ってるな。」


「昔何度か見た事ある。その人じゃ無いけど。

アライルテム族は死霊系の魔法を使う種族。」


「死霊系魔法とはまた…」


「色白の肌という見た目も相まって昔から色々な種族から気味悪がられ、嫌われてきたみたいですよ。」


「なんかそう聞いちゃうと可哀想に思えるな。」


「アライルテム族も他種族との交流を避けた事によってその数を減らし今では彼女一人を残すのみになったそうです。」


「凄く可哀想に思えてきた。」


「事実可哀想な種族。数を減らす要因として他種族から言われのない虐殺を受けてるから。」


「虐殺?」


「地球で言う魔女狩りの様な物です。アライルテム族は他種族から離れて静かに暮らしていたのに、人種によって虐殺されたのです。」


「なんでそう人種ってのは……いやまぁ俺達も人種なんだけどさ…」


「幸い逃げられた数人はグラウンドデッドへと逃げ、そこで暮らす事になったらしいですよ。誰も来ないグラウンドデッドにしか生きる場所を見つけられなかった…とも言えますが。」


「嫌な話だな…」


「私からするとあんなに人種を嫌うアライルテム族と知り合いという事に驚き。」


「まぁその辺は記憶を取り戻したら分かるだろうけど…嫌われてはいないんだよな?」


「恐らく好かれている…と思いますが…」


「歯切れが悪いな?」


「少し分かりにくい性格の方でして…」


「嫌な予感しかしないんだが?」


「そんな事よりさっきから何してんだ?」


「これか?色々あって装備品が壊れたろ。その代替品として色々作ってみたんだが、その最終調整だよ。」


「マジか?!やったぜ!」


「健は外套もぶっ壊れたんだったよな。まぁ服装も変わったし外套じゃ合わないからちょうど良かったのかもな。」


「壊れたのはショックだったんだぞ?」


「まぁ気に入ってたもんな。でも壊れちまったもんは仕方ないからな。ほれ。あとプリネラも。」


「やったぁ!」


「二人は近接戦闘になりやすいから邪魔にならない様に腕輪型にしておいた。なるべく軽くしてみたんだがそれでも邪魔になりそうか?」


「いや。全然大丈夫だな。サイズもピッタリだ。」


「私もピッタリです!」


「健の方には同じ火魔法の魔石を埋め込んだけど、効果が違う。前と同じ様に2回腕輪を叩いてみてくれ。」


「よっしゃ!」


健が二回腕輪を叩くと、発動したのは第四位火魔法のファイヤーバード。炎で型どられたつばめが健の周りを飛び回る。ファイヤーバードは魔法を発動させた人のイメージがそのまま形になる為人によって鳥の形は異なる。


「ははっ!こりゃ良い!」


「ファイヤーバードは前の火の玉より速いし攻撃力も高い。ある程度状況に応じて動く様にはしたけどあまり過信せずあくまでも補助くらいに考えててくれ。」


「おぅ!ありがとな!」


「プリネラの方は魔力を少し流し込むと発動するぞ。」


「えっと……あ!出てきた!」


プリネラの腕に巻き付くように出てきたのは第四位土魔法ストーンスネーク。石でできた小さめの蛇。


「そいつはストーンスネーク。プリネラの魔力を認識する様にしてある。

プリネラとの接触を断ち切ると数秒後に爆散する魔法だ。」


「私に触れている間はこのままって事ですか?」


「あぁ。プリネラは静かにしなきゃならない場面も多いと思ってな。先に発動しておけるタイプが良いかと思ったんだが…ダメだったか?」


「全然そんな事ないです!凄く嬉しいです!

ふふふ…これでイタズラしたら怒られて……ジュルル……」


「変な事に使うなよ!?爆散して石の破片を飛ばすからな。それ程殺傷力は高くないけど気を付けてくれ。」


「先手を打たれてしまったぁー!」


「でもよ。前より魔石小さいのになんで高位の魔法が発動するんだ?」


「それは魔石にもランク…と言えばいいのか…純度みたいな物があるんだ。」


「純度?魔力のって事か?」


「あぁ。より濃い色の魔石はより多くの魔力を保有できるみたいでな。最近高ランクのモンスターをよく倒してたから気が付いてな。その中でも純度の高い魔石を使ったら上手くいったって感じだな。」


「それって一般的には知られていないよな?」


「知ってる人もいると思う。けど広くは知られてない。」


「シャルは知ってたのか?」


「私の服を作ってもらう為に素材持っていった時にマコトから聞いた。」


「受け売りかい!」


「まぁAランク以上のモンスターじゃないと純度の違いなんてほとんど分からんし誤差だからな。

それくらいのレベルの素材をよく扱う人は多分知ってるぞ。」


「そんな高ランクのモンスターから取れる魔石なんて普通手が出ないから一般的には知られてないって事か。」


「そう言うことだな。さて、せっかく話にも出てきたしシャルにこいつを渡しとく。」


「出来たの?」


「というかここ数日はこれを作るためにほとんど時間を割いてたからな。いい出来だぞ。」


シャルが持ってきたブラックスネークの皮や闇の魔石を使って作ったのは黒いゴスロリ服。そもそもこんな服の構造なんて全く分からなかったし苦労した。凛やリーシャに聞いて…というか手伝ってもらってやっと完成した代物だ。


「闇の魔石を随所に使ってある。魔力を流し込むとそれに反応して伸び縮みする様に作った。」


「ほんとに作れちゃうなんて…マコトは本当に凄い。」


「凛とリーシャも手伝ってくれたからな。

そしてそいつの能力は伸び縮みするだけでは無いのだ!」


「??」


「そいつはブラックスネークの皮を闇魔法の糸で繋ぎ合わせてある。だから破れたとしても修復機能が付いているのさ!」


「そんな事できるの?凄い…」


「はっはっはー!凄いだろ!

まぁ考えたのは凛だけどな。」


「服が破れてそれっきり着れないのは悲しいですからね。私からお願いしておきました。」


「さすがはリン。細やかな気遣い。早速着る。」


「ちょっ!ここで脱ぐな!」


「……??」


「なんで?みたいな顔するな!後で!」


「マコト恥ずかしいの?」


「俺は恥じらいの無い女性は嫌いだぞ?」


「………マコトのエッチ。後で着替える。」


「何故俺が助兵衛すけべえみたいに言われてるんだ……

まぁいい。気を取り直して…次はリーシャだな。

はい。」


「ありがとうございます。ネックレスですか?」


「光の魔石が入ってる。こいつも魔力を少し注ぐと発動するんだが…実際やった方がわかりやすいかな。」


「はい。では…」


リーシャがネックレスに魔力を注ぐと、当然目の前にいたはずのリーシャが一歩横にズレた位置に移動する。


「なんだ?!瞬間移動したぞ?!悟〇?!」


「違う違う。というか変な事口走るな。」


「す、すまん…つい…」


「こいつはミラージュ。それ程複雑な物じゃ無いからリーシャの位置を少しズラすくらいしか出来ないが、外が暗闇でも使える様にしたから使い勝手は良いと思うぞ。」


「こ、これは破格の能力ですね…」


「実体が消えるわけじゃないから範囲攻撃に弱いしあまり過信しないでくれよ。」


「ありがとうございます。」


「最後は凛だな。ほい。」


「指輪ですか?」


「ふっふっふ。そいつは凄いぞ。」


「無色…という事は無属性の魔石ですか?」


「うむ。その通りだ。」


「どんな魔法が…?」


「チッチッチッ。甘いな。なんとその魔石は魔力を溜められる魔石であーる!!」


「魔力を?!」


「マコトがまたヤバい物作った。」


「むしろ酷くなってねぇか?」


「何故凄いものを作ったのに罵倒されるんだ…」


「行き過ぎ。」


「やり過ぎ。」


「ぐっ……言い返せない……」


「どうやって作ったの?」


「う、うむ……そもそも魔力を溜めるってのは魔石には無理だろ?」


「うん。」


「魔力が結晶化した後、魔石を通して入る魔力量も出てくる魔力量も一定で基本的には制御出来ない。あくまでも空気中にある魔力の粒を使える形に変換するだけの物。それが魔石だ。」


「うん。」


「でも魔石ってのは突き詰めれば魔力の塊だろ?なら魔力に戻す事だってできると思わないか?」


「確かに出来そうな気はしますが…」


「普通は出来ないですよね。砕いても熱しても魔力には戻りません。」


「そんなやり方だからダメなんだ。」


「他の方法なら出来るんですか?」


「出来る。そもそも魔力って物がなんなのかって話になるんだが…簡単に説明すると何にでもなれる粒…って感じかな。」


「何にでもなれる粒…」


「魔法はその粒に指向性を持たせてやる事で生じる結果と言った感じかな。

粒に水になれー。って指向性を持たせてやると水魔法。火になれーって指向性を持たせてやると火魔法になる。」


「原子の元…って事ですか?」


「お。それが伝えたかったんだ。原子って言うとこっちでは伝わらないからな。」


「だからさっき粒を集めると魔石になるって言ったんだ。」


「その通り。ただ、魔石になる時にはある程度その粒に指向性が与えられる。それが色となって現れてるんだ。」


「火の指向性を持った物は火の魔石…と言った具合ですね。」


「正解。そこまで分かったら魔石にどんな事をしたら魔力に戻るか分かるだろ?」


「分解…しかも原子レベルでの分解ですね。」


「分解するってのは属性魔法では無理だろ。つまり俺が解明して誰も知らない無属性魔法でしか出来ない事だ。」


「そっか…だから誰にも魔石を魔力に変えられなかったんだ。」


「正解!まぁ実際やってみたんだが、ちゃんと魔力に戻ったぞ。魔石は綺麗さつぱり消えるけどな。」


「勿体ない気がしますね…」


「逆に結晶化させようとしたけど、それは無理だった。なんか条件とかあるのかもしれないが…今はそれは置いておこう。

魔石から魔力に変換は出来たんだが、色の着いた魔石ってのはある程度指向性、つまり魔法に変換されつつある状態の魔力でな。霧散していく時に属性魔法となって霧散していくんだよ。第一位にも満たない魔法になってな。」


「魔法に変換されてしまうとなると魔石から魔力を取り出すのは難しいですね。」


「だから無色の魔石を使ったんだ。」


「属性が無い魔石…という事は……指向性を持たない粒のまま結晶化したものですか?」


「大正解!こいつだけは魔力そのものに変換されるんだ。

そこで魔石という形ををギリギリ保てる限界値まで分解、その後また魔力を集めて結晶化するを繰り返す様に魔法陣を組んでみたんだ。」


「結晶化は無理って言ってなかったか?」


「まぁな。でもそれは何も無い所から結晶化させようとした場合だ。

でも、既に結晶化している魔石を使うと、周りの空気中から足りない分の魔力を補う様に吸い取って復元するんだ。」


「魔石という形さえ崩さなければ、それの繰り返しで魔力の蓄積と放出が出来る…という事ですね!」


「そうゆう事じゃ!!」


「な、なんか難しい…」


「無色の魔石だけは魔力を蓄積していつでも取り出して使える凄いやつだった!って事だ。」


「うん。それなら分かる。」


「そんでその凄いやつにした物が、凛に渡したこの指輪にめ込まれてる無色の魔石。」


「カッコイイ。」


「ふっふっふ。分かってくれたか!」


「真琴様は本当に凄いですね…ありがとうございます。大切にします。」


おい凛。そっと薬指に差し込むな。そしてうっとりするな。サイズも調節出来るようにしたのは失敗だったか…だが今更言えないしな…よし。考えるのをやめよう。


魔法陣とか魔石の質とかで色々微調整したりしなきゃならないし、失敗すると魔力に戻って消えちゃうから成功したのは今のところは凛に渡した物だけ。


「あ、そうだ。使い方はいつも魔法を使う時みたいにその魔石に魔力を通せば使えるからな。

それと、大体第四位魔法を使えるくらいの魔力を溜め込ませられる。一度使うと一日は魔力を溜め込ませないと再度使えないからな。」


「分かりました。」


「よーし。沢山喋って疲れたし、寝るかー。」


「待て待て。まだ終わりじゃないぞ。」


「ん?」


「はい!真琴様!受け取って下さい!」


「俺にか?!」


「どうせまた自分の分は何も無いんだろ?」


「その通りなんだが…いつの間に?」


「実は俺達で連絡を取り合っててな。何にするか相談して全員で決めたんだよ。」


「全然気付かなかったな…ありがとう!開けてもいいか?」


「はい!」


「……ローブ!」


「一年前の戦闘で大分傷んでたからな。」


黒い生地で作られ、白い縁取りのローブ。長さは腰くらいまであるだろうか?前のより少し長めだ。


「真琴様の様に凄い物ではありませんし、市販品ですが…」


「そんなの関係無いって!嬉しいよ!ありがとう!」


「ある程度の魔法防御を常時発動してくれるんだぜ。着けてみろよ。」


「おぅ!………どうだ?」


「似合います!」


「最強ですね。」


「マコトカッコイイ。」


「めちゃくちゃ照れるけど……ありがとう皆!」


嬉しそうに笑う皆の顔を見ていると、ふとフィルリアの話を思い出す。プレゼントは相手の驚いた顔と喜ぶ顔が見たいからバレないように用意するって言ってたな。今なら昔よりそれがよく分かる。


翌日、モンスターが出てくる度に皆が装備を使いたくてギラギラしている。モンスターにとってはとても嫌な旅人だろう。


「モンスターなかなか出てこねぇな。」


「出てきて欲しいって聞こえるぞ?」


「もっとこいつを試したくてなぁ。」


「真琴様真琴様!これってあとどれくらいで使える様になりますか?!」


「いや。さっき使ったばかりだろ。明日までお預け。」


「待ち遠しいです。」


「念の為の物だから、いざって時に使ってくれよ?」


「はい!」


「分かってなさそうに見えるのは俺だけだろうか…」


皆はしゃいでいる様子だ。かく言う俺もチラチラとローブを見てはテンションが上がるを繰り返しているのだが。


「おーい!」


そんな俺達の方に北から向かってくる人影。龍人種の青年の様だが、こんな所で何をしてるんだ?

というのもここから北には特に街も国も無く、ただただ荒れ果てた大地があるのみ。俺達のように目的があれば別だが普通は近付く事も無い場所。

まして青年一人で来る場所では無いはずだが…


手を大きく振りながら走ってくる青髪の青年は少し焦っているように見える。


「はぁ、はぁ、すいません!姿を拝見するに冒険者の方々ですよね!?仲間を助けて下さい!」


「何があったんだ?落ち着いて話してくれ。」


「は、はい!私はエルク!仲間と共に腕試しとしてこっちにモンスターを討伐しに来たんです!

ですが…この先に新しいダンジョンを見つけて…仲間と共に入ったんです…」


「新しいダンジョンに無闇に突っ込んだのか?」


「は、はい……」


「それで仲間は?」


「それが……思っていたよりずっと危険度の高いダンジョンだったので…私だけ…」


「分かった。取り敢えずそのダンジョンに案内してくれ。」


「はい!」


取り敢えずは青髪の青年に着いていく事にした。本当にダンジョンが生成されているならコアを破壊するかデュトブロスに戻って報告する必要がある。


青年は俺達の先頭に立ち北へと向かって走る。


「マコト。」


「分かってる。」


「なら良い。」


「ここです!」


青年が案内した先にはやけにしっかりとした石畳があり、その中心に地面の中へと入っていく階段がある。未発見のダンジョンが生成されているという話は本当らしい。

北側には人がほとんど入らない。という事が仇になって未発見だったのだろう。


「中はどうなってる?」


「通路はあまり広くなく石造りです。迷路の様な構造になっていて、いくつも部屋があり、その中に入るとモンスターが出現します。」


「出現?」


「部屋のあちこちに穴があってそこからゾロゾロと出てくるんです。

最初は良かったのですが…先に進むにつれモンスターのランクが上がり…」


「対処しきれなくなったと?」


「はい…」


「……悪いが、そんな状況であれば仲間は死んでる可能性が高いと思うんだが?」


「仲間には必ず戻ると約束したんです!」


「……わかった。じゃあ道案内を頼むよ。」


「あ、ありがとうございます!」


警戒しつつもダンジョン内に入る。エルクの言っていた通り石造りの廊下へと出る。薄ら明るい廊下が先に続いている。

ダンジョン内はいくつもの別れ道があり、かなり複雑な作りになっている。

右に左にと曲がりいくつかの部屋を通り抜けた。そこで出てきたのはグリーンウルフの様なランクの低いモンスターばかり。確かにこのランクのモンスターが出てくるだけなら奥に進んでいってしまうのも分からなくはない。


「こ、ここです。」


エルクが唾を飲み込み閉まった扉を見て言った。


「行くぞ。」


「はい……」


エルクの手が扉に掛かり、ゆっくりと開く。

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