第35話 父から弥生へ

俺は弥生を外に連れ出した。


「ねえ。話って…何?」


「ちょっとこっちに来て」


俺は弥生の手を掴み、弥生に教えられた海に連れていった。


「海!? どうして?」


「まあね。でも弥生に会いたいって人がいるんだ。だから会ってくれないかな」


弥生は走って逃げようとする。俺は逃げる弥生の腕を掴む。


「何をするの!?」


「弥生。少しでいいから話を聞いてあげてくれ」


「いやだ。何であんな奴の話を」


「弥生。話さなきゃ分からないことだってたくさんあるんだ。だから、ほんの少しでいい。だから…だから仲直りなんてしなくていい。話なんか聞かなくてもいい。だから、せめて顔だけでも見せてあげてくれ。お前の大切なものがきっとあるから」


「そうだね。じゃあ顔を見せるだけ」


「うん」


「じゃあ…行ってくる。あとさ…ありがとね」


そして弥生は走って海の中に飛び込んだ。


「あとは親子水入らずで頑張りな」


俺は自分の部屋に戻った。弥生と卯月さんの二人きりを邪魔してはいけないと思ったからだ。


「頑張れよ。弥生」


そして、弥生と弥生の父である卯月さんとの物語が幕を開ける。

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