第16話 追う人

俺はいおりの背中を見るだけだった。


「追わないの…?」


岡嶋さんは申し訳なさそうに聞いてきた。


でも俺は岡嶋さんをこれから裏切ることになる。だから岡嶋さんの願いを聞き入れるため、俺はただ見るだけだった。


ゴメン…いおり…。


「デートを…続けようよ」


「…うん」


俺はもう考えすぎて頭がパンパンだった。もう何も考えることができない。


追うのが正解なのか、追わないのが正解なのか、俺にはもう分からない。


「ねえれいくん。君は…これでいいの?」


なぜ岡嶋さんはまだ優しくしてくれるんだろう。


「お…岡嶋さん。僕は…これでいい」


「いや。れいは自分に自信が無い時、一人称が俺から僕に変わるんだよ。幼なじみだかられいのことはよく知ってるんだよ」


「でも…」


「れい。君は自分の気持ちに正直に生きて良いんだよ。だから、行きな。でもその代わり、その子を幸せにしなよ」


「でも岡嶋さんは…」


「私はいい。だって好きな人には幸せになってほしいんだ。だから行って。れい」


俺はまだ迷っていた。だって今行けば岡嶋さんは…


「れい。君が今やることは、ここで考えることじゃない。ただ追うことだよ 」


俺は岡嶋さんの目を見ると、真っ赤で涙をこらえていた。


「ごめん」


俺はいおりを追って走り出した。


「ごめん。岡嶋さん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る