第4話 名前?

三月れいと沖島さんが電車から降りると、辺りはすでに暗くなっていた。


「沖島さん。送ってくよ」

「あ…ありがとう」


時計を見るともう11時だ。暗くて沖島さんを見失いそうになる。

すると沖島さんも不安だったのか聞いてきた。


「手…繋ぐ?」


沖島さんから誘ってくれたのし、断る理由も無かった。


「う…うん」


俺は心臓の音が聞こえるのではないかというくらい緊張していた。

俺は初めて同級生の女子と手を繋いだ。

沖島さんの手はなんというか、温かい。温もりがあり、柔らかさがあり、落ち着く。


「三月くんの手、ホッとする」

「えっ!?」


「違う違う。そういう意味じゃなくて…なんというか、お父さんみたいなっていうか、優しいみたいな、なんていうか…」

「ありがとう。沖島さん」


「ねえ、沖島さんってなんか彼女じゃないみたいじゃない?」

「まあ、たしかに」


でも沖島さんの下の名前、知らないし…。


「私、いおり。いおりって呼んでほしい」

「…いおり」


「そう、いおり」


いおりは喜んでくれた。いおりの無邪気な笑顔を見てると、俺もなんだか優しい気持ちになる。


「もっと呼んで」

「いおり」


「もっと」

「いおり」


「もっと」

「いおり」


「もっともっと」

「いおり、いおり、いおりいおりおり…」


いおりは笑ってくれる。


「ねえ、今度は私の番」

「?」


「れい…だよね」

「うん」


「じゃあ、れい。これから私はれいって呼ぶ。よろしくね、れい」

「こちらこそ、よろしくな。いおり」


そんな話をしていると、いおりの家についた。


「じゃあね、れい」


いおりは寂しそうにしていた。


「楽しかったよ。またな、いおり」

「うん。またいこうね、れい」


「ああ、もちろん」


寒い風が吹く中、三月れいは一人で家に帰る。だが彼は寒くも寂しくなかった。

なぜなら…まだ彼の右手には沖島いおりの温もりが残っていたから。

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