第2話

木こりは宝物を持つように慎重に慎重に巣を運びました。

大樹の立派な枝にそおっと巣を置いた木こりは、生い茂る葉が巣を守ってくれそうだと、満足気に止めていた息を吐き出しました。

喜んでくれる小鳥達の姿を思い、自然とこぼれる微笑みのまま静かに見守っていた彼らを振り返ります。

けれど木こりが目にしたのは、歪んだ顔で声にならない悲鳴を上げる小鳥達の姿でした。

頭や肩にふり落ちる葉っぱ。背中に感じる重さ。

何が起きたのか、少しの間理解出来なかった木こりの時間が止まります。

音もしなくなりました。

自らの背負っていた斧が枝を打ち、巣を打ったと気付いた時には、もう巣は地面で潰れていました。

卵からはみ出た塊を見た木こりは、気を失ったかのように立ちすくみます。

どれ程そうしていたでしょうか。

暗闇の中、自らの体温さえも感じないまま帰路に着いた木こりは、何も見えず、何も聞こえません。

背負った斧を降ろすこともなく椅子に座り、ただじっと俯く木こり。

妻が心配そうに声をかけ斧を降ろします。

まだ幼い子供は甘えるように膝に頭を乗せます。

妻が肩に手を乗せ顔を覗き込みます。

子供が泣きじゃくりながら腕を揺すります。

妻が涙をこぼして抱きしめます。

けれど木こりには届きません。

何もない時間が過ぎていきます。

どれくらいそうしていたのでしょうか。

暖かい日差しが窓から注ぎ、賑やかな鳥の声に耳をくすぐられ、ようやく木こりは顔を上げました。

窓を開けると、小さな雛達を連れた青い小鳥が嬉しそうに言いました。

「今度は無事に生まれました。これから木の実の沢山ある森に引っ越しです。ありがとう木こりさん」

木こりに時が戻ってきました。

また斧を持って森に入らなければ。

ほんの少し弾んだ足取りで部屋の扉を開けます。

そこにはいつも優しい灯りがありました。

薪で温められたスープと少し焦げ目のあるパン。

かたいけれど味わいのあるパンは妻が毎日焼いています。

木こりはテーブルにつき釜戸の方へ声を掛けようとしました。

けれど釜戸に火は入っていません。

暗いままで温度を感じない釜戸。

冷たい釜戸の側には、痩せこけた腕で大事そうに子供を抱いた妻の転がる姿があるだけでした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

とある木こりの物語 遊理 @youriz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ