とある木こりの物語

遊理

第1話

ある森の外れに木こりの一家が住んでおりました。

木こりは今日も重い斧をかついで深い森に入って行きます。

「お前に斧はいるのかい?」

草を踏みしめる音と共に他の木こり達のからかう声が刺さります。

ほんの少しうっかりしていただけなのに、、、。

木こりの気持ちにさざ波がたちます。

けれどうっかりでは済まされないことも知っています。

決して伐ってはいけない木に斧を振り上げた罰。

森の護り木を傷つけた木こりに許されているのは、病気の木を間引くことと枝を拾うことだけです。

いったいいつになれば以前の木こりに戻れるのでしょうか。

皆の先頭に立ち、声を張り上げ汗を拭っていた木こりに。

重い足どりで枝を拾いながら着いたのは、木こりの心を和ませてくれるたった一つの場所です。

大きな木々の間に隠れるように立つ若木のそば。

「今日も元気がないのですね」

青い羽を輝かせながら小鳥が囀ずります。

木こりはポケットにしまったいくつかの小さな小さな木の実を握りそっと差し出します。

「いつも木の実をありがとう」

若木から顔を覗かせた二羽の小鳥は声を揃えてお礼を言いました。

木こりにとってたった二羽だけの友達。

護り木を傷つけたあの日から聞こえるようになった綺麗な声に、木こりはずっと励まされてきました。

大切な友達の温かい声が今日はとても弾んでいます。

「とっても嬉しいお知らせがあるのですよ」

そう言って肩に乗った小鳥の様子に、木こりの頬も少し弛みます。

「あと幾日かで卵が孵化かえるのです。私たちの初めての卵達が。どうぞ見て下さい」

大きな木こりが背伸びをして巣を覗くと、そこには小さな卵が三つ寄り添うように並んでいました。

淡い青色をしたそれはとても美しくて愛らしく、まるで小鳥達そのもののようです。

卵を見つめる木こりの目には涙が浮かんでいました。

この愛おしい卵達が無事に孵化かえってくれることを祈り、そっと巣から離れようとした時、木こりはこの若木が病にかかっていることに気付きました。

枝の先が枯れ始めているのです。

木こりは小鳥達に巣を移した方が良いと言いました。

でも小鳥達は、あと少しで孵化かえるのだからと嫌がります。

木こりは近くの元気な大木を指し、あの木なら安心だと一生懸命説得をしました。

日が傾き始めた頃、ようやく小鳥達は首を縦にふりました。


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