第25話

「えっ、禁術だなんてそんな、あれはただの移動魔法ですよ?」

 移動魔法自体は既にいくつもあり、この世界の物流を支えている。古の大魔術師により移動魔法が体系化されてからは世界各地の交易が盛んになり、社会が日進月歩で発展したそうだ。

 移動魔法と言っても風魔法で風を操って移動するもの、炎魔法で推進力を生みだして移動する者、水魔法で水圧を利用して移動するもの、土魔法で地面そのものを動かすもの、雷魔法でモーターを動かして移動するもの、ユニークスキルで肉体を強化して速く走れるようにするものと様々だ。

 リゼも恐らく、そういうものの一環だと思っていたのだろう。

「リゼリアさんが使った魔法――転移魔法は移動魔法と決定的な違いが一点あります。……障害物を無視することが出来ることです。お分かりですね?」

「はい、確かに密閉された場所からでも転移できましたけど……」

「それは酷く悪用のきく物です。強固な城塞も何もかもを無視してしまうそれは、禁術に指定されています。……そして、ちゃんと使えば大変便利なものでもあります」

「……この部屋に来るとき発動したのは、同じ魔法ですね?」

「ご明察です、ヘイン君。その通り。この部屋は転移魔法を使わなければ辿り着くこともできませんし、逆に出ることもできません。」

「先生はこの魔法が使えるんですか?」

「まさか。この部屋の入口と出口……まぁ便宜上ですが、そこには魔石が置いてあり、この魔法の発動式が入れられています。……それが“トゥーリェの秘石”と呼ばれる、トップシークレットに指定されている魔道具です」

「トゥーリェって……あのトゥーリェですか?」

 トゥーリェ。魔法使いどころか、この国の人間でその名を知らぬ者は居ない。1000年前に魔王を倒し、今の魔法学の基礎を築き上げ、魔法学院を設立した人物。伝説の大魔術師の名前だ。

「はい。この魔石はトゥーリェが作ったものであると言われています。そしてこの部屋も。ここは今のように、重要機密を語る為に作った部屋であるようですね」

「……先生は、私達にそんな秘密を教えて、私達をどうするつもりなのでしょうか?」

「そうですね、言ってしまえば……リゼリアさん。あなたは、トゥーリェの末裔の可能性があります」

「えっ?」

 リゼは心底驚いた顔をしている。

 トゥーリェはある日突然姿を消したらしい。それまでは独り身で、家族も恋人も居ないと伝えられている。

 リゼが、そんなトゥーリェの末裔……。にわかには信じられないが、リゼの才能を考えるとありえなくもない話だ。

「ですが本題はリゼリアさんではありません。ヘイン君、あなたです」

「えっ?」

 俺?リゼが実はトゥーリェの末裔かもしれない、という話題よりも大事な話が俺にあるのか?

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