幕間1

 食堂での注文は先にそれぞれのメニューに対応したい色をしている、カラフルな石を購入する仕組みなんだとシロノアさんが教えてくれた。

 そして今私はシロノアさんに習ってその石の注文票を購入するための列に並んでいる途中。

「そういえばシロノア、お弁当はどうしたのよ」

「ん?ああ、もう食べた。めちゃくちゃ美味かったよありがとう」

「あら、どうも。……次はもっと多く作るわ」

「おう、楽しみにしてる」

 なるほど、自習中になんだか良い匂いがするなあと思ったらシロノアさんがお弁当を食べていたみたい。

 そばで話している二人はとても仲が良さそうで、羨ましいなって思った。

 やがて私達の順番になり、シロノアさんがおすすめしていた日替わりランチをシアさんと一緒に注文した。

 当のシロノアさんは一人で二人分ぐらい頼んでいた。お弁当食べていて更にこんなに食べるなんてすごいなあ。

 石を専用のカウンターに置いたら、料理を受け取るまでの間暇になっちゃったから残った三人の方を見ていた。

 ……リゼさん、ヘインさんと随分仲が良さそうだな、と思った。

 どうしてだろう、胸がざわつく。

「あの、ヘインさんってリゼさんと仲が良いんですか?」

「ん?あー、朝は幼馴染だって言ってたけどそんな話は初耳だしな。もしかしたら裏で付き合ってたりしてな。あいつも隅に置けねえなあ」

「んー、でもそれは無いんじゃないかしら。私とリゼはいつも一緒に居るけど、あの子が隠れて誰かに会いに行くような事なんて無かったわよ?でも、幼馴染が居るなんて事も今初めて聞いたわね」

 シロノアさんもシアさんも知らないらしい。それぞれの親友が知らない事なら、普段は一人ぼっちの私に真実が分かるはずもない。モヤモヤした感じがする。

「はいよ、お待たせ」

 食堂の人が気さくに渡してきた日替わりランチを受け取る。

おすすめされただけあってとても美味しそう。だけど、今の私の気分にはとても相応しくない。

 席に戻ると、逆に3人が席を立ち買いに行った。

 その後ろ姿はヘインさんが2人の美少女を侍らせているようで、それも私の心をかき乱していく。

 今までメリルさんがヘインさんと仲のいい子だと思っていたけど、実は男性かもしれないと聞いてちょっとホッとした。でも、それ以上にリゼさんがヘインさんと幼馴染だと知ってしまったのがとてもショックだった。

 それを聞いた時、とても可愛くて、胸も大きくて、とっても頭が良くて、白ネクタイで、そして何より大貴族の御令嬢。そんなリゼさんに、私が勝てるわけがない。そう思ってしまった。

 これで嫌な感じの人だったらまだしも、他の貴族と違ってこんな私にもすごく好意的に接してくれる、とても優しい性格の人。これじゃ、憎みたくても憎めない。

 勝てないだとか憎めないだとか、初対面の人にこんなに鬱屈した感情を抱くなんてどうしてだろうか。

 ……ああ、そうか。

 周囲が貴族ばかりで、貴族じゃない人も寮生同士で集まって、いつも一人ぼっちだった落ちこぼれの私に声をかけてくれた事。

 林間実習の時に困っていた私とペアを組んでくれて、そして突然現れた魔物から助けてくれた事。

 ヘインさんと過ごした時間は、全部鮮明に思い出せる。そんなに長くはないけれど、私にとってかけがえのない時間。

 今朝も心細かったから声をかけたんじゃなくて会話がしたくて声をかけたんだし、さっきも一人で帰って家で食事をするのが寂しかったからじゃなくてヘインさんと一緒にいたかったから一緒にご飯を食べたかったんだ。

 そう、私はいつからか……いや、きっと出会った時からヘインさんに恋をしていたんだ。

 そして自分を重ねて、リゼさんもヘインさんが好きなんだって思えてしまう。

 リゼさんは恋敵としてはとても敵う相手じゃないと分かっている。でも、負けたくない。負けられない。私もヘインさんが好きだから。

 自分の気持ちを、恋慕を認識して、目の前のランチに手をつけた。

 きっと私はこの味を一生忘れる事ができないのだろう。初恋の味として。

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