第23話
「じゃあ、ちょっと手を出して」
最後の一回を試すためだから、とお願いされる。
特に拒む理由もないので右手を差し出すと、そのまま左手で握られた。
急に手を繋がれたので内心ドギマギする。昔リゼと手を繋いだこともあっただろうが、色々と自意識に変革が加わった今ではこの行為に対する印象が違いすぎる。
「よし、やってみよう」
そんな俺の気も知らないで、リゼは真剣な顔で呟いた。
リゼの方を見ると顔が赤くなりそうだったので地面を見ていたが、次の瞬間、そこに床はなくなった。
リゼの瞬間移動魔法が発動したのだ。俺も巻き込んで。だから手を繋いだ。
そして、失敗した。ここに来ることはリゼも想定していないだろう。
これらの事を俺が理解する頃には、既に俺達は重力に引かれて落下する途中だった。
リゼも気づいたようで、
「ぎゃああああああああああああ!?」
可愛いさとは程遠い、ガチの悲鳴を上げている。これは完全にパニックだ。
飛行魔法でも発動すれば良かったのだが、パニックになっていると発動するのは難しい。あれはそもそも地上から宙に浮く時に使う物で、落下中に使う物でもない。
そして、発動までに時間がかかるので、どのみちこの高さからの落下では唱え終わる前に地面に激突してしまう。
ど、どうすんだ!?
考えていても仕方がないので、俺はリゼを抱え込み、背中から地面に激突した。
強い衝撃が身体中を走り、息が止まる。
「っ!ヘ、ヘイン!大丈夫!?しっかりして!?」
「がっ……ゲホッ、ゴホゴホッ!……ん、ああ、な、なんとか大丈夫みたいだ」
下が柔らかい地面だった事が幸いしたのか、大きな怪我はなさそうだ。
身体を起こしてみても激痛が走る事もない。丈夫な身体に感謝だ。
「無事で良かった……!」
ガバッとリゼに抱きつかれる。言い換えれば彼女の豊満な肉体の一部が身体に押し付けられているわけで、その、非常にまずい。これまた色々と。
「お、落ち着けって……いてっ」
どうやら打撲は負ったようだ。背中から痛みを感じて思わず声が出る。
「わ、怪我!?と、とにかく手当てを!」
「え?」
「ヒール!」
負い目を感じているのか、慌てているリゼは回復魔法を発動して光り始めた。
そしてやっと気づいた。突然に空中に現れた男女、白ネクタイと黒ネクタイ、光魔法で光っている人間。周囲の注目を集めないわけがない。
……そしてやっと、時系列は今に戻る。
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